Episode:09
◇Sylpha
タシュアは結局、予定の日までに戻ってこなかった。
――どうしよう。
どうしてもダメなら、すべてキャンセルしなくてはならない。
でも……。
「もしかして」という思いもあって、出発当日になってもまだ私は、決心がつかないでいた。
タシュアのことだ。何食わぬ顔で戻ってくるかもしれない。いざとなったら、現地で合流したっていい。
荷物を詰め終わったバッグを見ながら考え込んでいると、通話石が鳴った。
きっと、タシュアだ。
慌てて出ると、学院の交換の女性の声が聞こえた。
「12年Aクラスのシルファ=カリクトゥスですね?」
「そうだが……」
答えると交換の女性は、「タシュア=リュウローンからです」とだけ言い、相手が変わった。
「タシュア……?」
つい不安げな声になる。
今どこにいるのだろう?
なにより、ちゃんと旅行に行けるんだろうか……?
「大丈夫ですよ」
私の声音を読み取ったらしく、タシュアがそう言った。
少しだけほっとする。
だが次に聞いたのは、まったく予想外のものだった。
「それよりシルファ、予定が少々延びました」
自分の耳を疑う。
数日がまた延びたと言うことは……だが、「少々」なのだから……。
「戻るのは――そうですね、あと1週間ほどかかると思います」
「え、そんなに……?!」
考えるより前に、そう言葉が口をついた。
――どうしよう。
これじゃ絶対に旅行は……。
「なにかあったのですか?」
「い、いや、なにもないんだが……」
そう答えるのが、精一杯だ。
タシュアのほうはそんなことには構わず、言葉を続ける。
「それならいいのですが。
なるべく早く片付けて、戻るつもりですが――なんならシルファも、旅行にでも行ってきてはどうです?
2週間もあれば、かなりゆっくりできるでしょうから」
「――!!」
瞬間私は通話石を、叩きつけるようにして切っていた。
人の気も知らないで、勝手にどこかへ出かけた挙句に……!
「タシュアのばかっ!」
切った通話石に向かってそう言い捨てると、私はバッグを持って部屋を飛び出した。
――もういい!
タシュアなんて知るものか。
いつだってそうだ。タシュアは好き勝手に自分のしたいことをして。だったら旅行なんて、私ひとりで――。