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空(うつほ)なる真実 ルーフェイア・シリーズ11  作者: こっこ
Chapter:9 閑話休題、孤島にて
88/114

Episode:88

 夜のせいか、袖なしのシャツブラウスにショートパンツという、珍しい格好だ。

 月光にさらされている四肢に、目を奪われる。彼女がこういうふうに肌をさらすのは、滅多になかった。

 そのシルファが、サイズを振り下ろし、振り上げ、薙ぎ払う。

 月明かりの下、動きに合わせて舞う髪が綺麗だった。


(――髪だけではありませんか)

 真剣な表情。

 あまり意識したことはなかったが、こうして見ると美人だと思う。


 可愛げがない、同学年から上の男子生徒は彼女のことをそう言うが、表向きだけだ。実際には、シルファの人気は高い。

 加えてスタイルがいいだの色気があるだの、様々な噂を耳にする。


――まぁ中には、ろくでもない噂もあるが。


 だがそれも裏を返せば、それだけ注目されているということだ。

 けれど当のシルファは、タシュア以外にいまのところ、興味を示さない。

 それがいいのか悪いのか、タシュアには分からなかった。


 身体を入れ替え、切りつけ、下がる。サイズ(大鎌)の切っ先が軌跡を描き、その動きを追いかけるように黒い髪が舞う。

(休暇中ぐらいゆっくりすればよいものを……)


 この様子では、旅行中も身体を動かしていたのだろう。下手をすると、何かひとつかふたつ、退治までしていそうだ。

 行動派の彼女らしいが、せっかく旅行に出たのなら、もう少しのんびりしてもいいのにと思う。


 それにしても、あれだけ大きさのものを自在に操るのだから、相当の努力だ。

 武器をサイズに変更すると唐突に言い出したとき、シルファが自分で決めたこととはいえ、難色を示したのを覚えている。


 槍、せめてグレイブならまだしも、サイズとなると扱いが格段に難しくなる。加えて扱いの難しさから、攻撃の方法までが限られるのだ。大きければそれだけ重さも増し、いろいろな意味で女性の細腕には荷が重い。


 そう思って忠告したのだが、彼女は頑として譲らず、代わりに自らに厳しい訓練を課した。

 今の舞うような動きは、その結果だ。

 もっともタシュアは、シルファに対して頑張れと声を掛けたことは、今まで1度もない。むしろ、やり過ぎないように注意したくらいだ。

 だが彼女は、ひたすら努力を積み重ねていく。


――タシュアに追いつきたい、その一心で。


 タシュア自身は、シルファが追いつかなくても、一向に構わないと思っている。人には得て不得手があるし、限界もある。努力せずに出来ないと騒ぐのは論外だが、どうしても出来ないものを責めるつもりは、毛頭なかった。


 またそれを理由にシルファを下に見る気もそう扱うつもりも、全くない。きちんと努力している人間は、相応の尊敬を受けるべきというのが、タシュアの考え方だ。

 だが彼女は、それでは納得いかないのだろう。必死に努力し、Aクラスを不動のものにし、上級隊にも入った。


(十分、立派なのですがね)

 そもそも、シルファが努力しているのを一番そばで見てきたのは、タシュア自身なのだ。


 ただ気になるのはやはり、その努力が何を理由にしているのか、ということだった。

 目標としてタシュアを置き、追いつこうとしているのならいい。

 けれど今のシルファは、そういうふうには見えなかった。独りになるのが怖くて、居場所が欲しいがために、並び立とうとしているように思えてならないのだ。


(そんな必要は、ないのですが……)

 ここだけは、何とかしたほうがいいのではないか。この食い違いが先々、何か大きな危険を呼び込むのではないか。

 どうしてもその考えが、頭の隅から消えることがない。




※グレイブ:薙刀のようなもの




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