Episode:87
一人になるのが嫌いなシルファ。
一人でも生きていくと決意した自分。
見ているところがあまりにも違うのに、一番近い。
交友関係が広がり、親しい友人ができ、自然と薄れていけばよかったのだろう。だが、何の巡り合わせか、彼女はタシュアの近くにいるようになった。
それを見るたび、思うのだ。
いつでも側にいられるために、逆に一人になるのを怖がっていないか。かえって依存する結果になっていないか。
自分の隣にいることが全てになってしまい、それ以外の可能性を考えられなくなっていないか。
シルファが精神的に立ち直る機会を、そうとは知らずに奪っていないか。
出遭ったころの記憶をたどる。
最初は、間違いなく偶然だった。
次でシルファを助けたのも、気まぐれに近い。当時の自分はシルファどころか、他の人間すべてに興味などなかったのだから。
だがそういったことが重なるうち、気づけば彼女は側に来るようになっていた。
そして自分も追い払うようなことはせず、時に相手をした。
ただどれも、偶然の産物だ。
どこかで何かが少し違ったなら、いまだにお互い、赤の他人に過ぎない。あるいは違う誰かが彼女の側に居あわせたなら、やはり自分は無関係のままだったろう。
そんな思いが、常に頭の隅にある。
(きっかけは、きっかけに過ぎないということですか)
シルファとて、近寄らないという選択肢はあったはずだ。なのに側に来るようになったと考えるなら、彼女はその意思で選んだことになる。
それなのに確信が持てないのは、シルファのトラウマを知っているからだ。
自分の存在が、そのトラウマを不自然な形で埋めて、歪める結果になっているのではないか。そんな考えが、タシュアの頭からはどうしても離れない。
なにより、彼女が己の感情を勘違いしてはいないだろうか?
必要とされたいがために、そのように考え、行動する。実はそれだけの話で、なのに好意と勘違いしていたら?
どう見てもそれはいずれ歪んだ感情になり、やがて破綻するだろう。
もしそうなら……何があっても避けたかった。
そうなれば傷つくのはシルファで、しかもかなりのダメージを負うことになりかねない。
(さすがに、考えすぎでしょうかね)
思考が一段落したところで、ふと周りが明るくなったことに気づく。どうやら、屋敷脇に広がる林を抜けて、砂浜まで来ていたようだ。
(随分と没頭していたようですね)
ふと見上げると、満月にほど近い月が存在を主張していた。
(よい月ですし、このまま砂浜をまわって戻りますか)
闇を映した海に、白い砂浜が浮かび上がっている。暗い中、月明かりに照らされてた砂浜は、ぼんやり光っているようにも見えた。
その砂を踏みしめ、波の音を身体に満たしながら、感情を整理していく。
と、遠くに人影を認めた。
(……シルファ?)
背格好や髪の色から見て、間違いなさそうだ。
ただ、散策とは言いがたかった。時折反射する光は、サイズ(大鎌)の刃だ。
早い話、誰も居ない夜の砂浜で、大鎌を振り回して訓練をしている。
(あの時と逆ですね)
昔のことを思い出す。まったく関係のない二つの事柄が、なのにどこか似た状況になるのは、不思議で興味深かった。
邪魔をしないよう少し距離をとり、木に背を預けて様子を伺う。