Episode:80
(あの組み合わせなら、事前に騒ぐでしょうし)
意外に気の合うあの2人は、こういう計画だとすぐうれしそうに喋る。下手をすればイマドたちクラスメイトまで巻き込んで、大騒ぎしながら準備するはずだ。
だが、そういう話は一切聞いていなかった。
つまりルーフェイアは、事前には旅行のことなど知らず、急に同行したと考えていい。
(そういえば……)
自分がロデスティオに発つ前、シルファが何か企んでいた様子だったのを思い出す。
たしかケンディクまで頻繁に買い物に、それも独りで行っていたはずだ。ほかにもいま考えれば、おかしな点がいくつも浮かぶ。
なぜ、シルファはそんなことをしたのか。
ルーフェイアとでないなら、誰と行くつもりだったのか。
頭の中で情報の断片が、一気に組みあがって形を成していく。
「ご理解いただけたようで、良かったですわ」
聖女の仮面で、サリーアが微笑んだ。ただその瞳は、明らかに面白がっている。
だがタシュアが返した言葉は、予想外だったようだ。
「それで?」
彼女の仮面が、虚を突かれたものに変わる。それを尻目にタシュアは続けた。
「シルファがここに至った経緯は、理解しました。それで私にどうしろと?」
シルファが旅行の計画を立てていた、そのこと自体は予想外だったが、彼女がこの島に来る理由、そして学院に提出した予定を過ぎても帰ってこない理由は理解できた。
つまりは、こういうことだ。
「まさか、拗ねて飛び出した挙句、会わせる顔がないからと帰るのを逡巡している人間の機嫌を取れと?」
通話機による会話の最後を思い出す。
向こうからけたたましい音を立てて通話が切れたのは、取り落としたわけではなく、シルファが通話石を叩きつけたのだろう。
「途中たぶん違うわよ」
カレアナが笑いながら言うのが、不愉快だった。
サリーアのほうは無邪気な表情で小首をかしげ――演技だろう――不思議そうに言う。
「でしたらタシュアさん、なぜシルファさんと一緒にいらっしゃいますの?
そういうことなら最初からお一人の方が、何かと楽だと思いますけど?」
「また随分と論旨が飛びましたね。今回の件で私がシルファの機嫌を取ることと、一緒にいることに、なんの関係があるのです。
それに質問に対して質問で応答するのは、いかがなものかと思いますがね。」
「はいはい、2人とも喧嘩しないの」
カレアナが手を鳴らして、間に割って入った。
「議論と喧嘩の区別さえ、つかないようですね」
「あら、これが喧嘩に見えまして?」
あまり面白くないが、この点だけは意見の一致を見たようだ。
だがカレアナのほうはいつものように、意に介さない。何を言われても、この調子なのだろう。
「そぉ? てっきり仲良くケンカだと思ったんだけど。
ともかくタシュア、あなたが勝手にどこかへ行っちゃったからシルファ怒ってるんだけど……それ、分かってる?」
「勝手に、ですか」
彼女の言い分に、やれやれと思う。何を言ったところで、この2人はシルファの擁護をするのだろう。