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Episode:79

「シルファさんが旅行に出られたのは、ご存知ですわよね?」

「ええ。ですがそれが何か?」

 たしかに勧めたのは自分だが、シルファ自身が決めたのだ。幼児ではあるまいし、自分が口を出すべきことではない。

 だがサリーアは、やれやれというようにため息をついた。


「何か言いたいことがあるのでしたら、はっきり言っていただきたいですね。人外のシュマーはともかく、他人の頭の中などというものは、ふつうは理解できませんから」

 こんなことで連れて来られた挙句、よく分からない話を聞かされるのではたまらない。手をつけた軽食だけ食べ終えたら、さっさと帰るのが吉だろう。

 タシュアの考えを知ってか知らずか、カレアナがまた横から口を挟んできた。


「だからね、シルファがうちの子連れて、旅行に出たのはいいとして。

 あの子が言うにはその旅行、アヴァンからここまで延々、半月近くかけて南下したらしいわよ?」

「そうでしたか」

 大陸沿岸を縦断は初耳だが、だから何だと言うのか。

 ただカレアナのほうは、タシュアの答えに驚いたようだった。


「まさかとは思ってたけど……こういうのは、久しぶりに見たわねぇ」

「そうでなくては、こういうことにはなりませんわ」

 女性2人のやりとりが、どうにも気に入らない。説明不足にもほどがある。


「だからね、タシュア――」

「おばさま、私が」

 何か言いかけたカレアナを、サリーアが制した。説明は自分がする、ということだろう。

 正直タシュアにしてみても、そのほうが楽だった。常識をわきまえないルーフェイアの母親は、脱線の連続で説明の入り口にさえたどり着かない。


 金髪の従姉が話し始める。

「タシュアさん、旅行に出かけられるときは当たり前ですけど、ホテルや何かを予約なさいますよね?」

「状況によりますが、基本的には。中には何も考えずに行く、無計画な人間も居ますがね」

 暗にカレアナのこと――以前やられた――を言ったつもりだったが、当人には嫌味は届かなかったようだ。


「私も、そういう方に心当たりはありますけど、今は別の話ですわね。

 ともかく予約をするのが常なら、シルファさんも当然、そうなさったと思われません?」

「そうでしょうね」

 意外な面も持ってはいるが、シルファはおおむね堅実だ。どこかの誰かのように、予約もなしで泊まろうなどとはしない。


 そして、気づいた。

――話が矛盾する。


 学院で確認したとおり、シルファの旅行は長期だ。

 そのすべてを計画なしで、というのも考えられなくはない。だがそれでは、かなり無理のある旅行になるはずだ。下手をすれば、野宿する羽目になりかねない。

 だとすれば発ったのは通話石で連絡があったの当日だが……かなり前から計画していたはずだ。


 そして何より、ルーフェイアの同行。

 いくら子供とはいえ、いきなり連れて行くのは無理だろう。当人自身ははどうにかなるとしても、急に人数が増えては、行った先のホテルや何かですぐに困る。


 何よりシルファは、そこまで無計画で無責任ではない。あんな小さい子を、野宿しかねない旅行になど、連れて行ったりしないはずだ。

 その辺から考えるに、やはり旅行は前々から、計画していたと見ていい。

 ひとつ引っかかることといえば、なぜルーフェイアと行ったのか、という点だが……。






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