Episode:78
「サリーアと申しますわ。こちらを預かっておりますの。もっとも形だけで、実務は他の方がやってくださるのですけどね」
たおやかに微笑みながら、ルーフェイアに似た金髪碧眼の、車椅子の女性が挨拶する。
「タシュア=リュゥローンと申します。お招きにあずかって、光栄ですよ」
毒舌と皮肉の応酬をしながら、記憶を探った。サリーアという名は、もぐりこんだシュマーの通信網で目にしたことがある。
現総領はルーフェイアの母カレアナだが……たしか、その片腕だったはずだ。
――まさか、半身不随とは思わなかったが。
シュマーには、戦えなくなったものを切り捨てる印象があったが、少々違うようだ。
「まぁ。喜んでいただけるなんて、こちらこそ光栄ですわ」
「私は喜んでいるなどと、言った覚えはありませんが?」
すかさずタシュアは返す。
「集団の是非はともかくとして、人の上に立つような方がまともに言葉も理解できないのは、かなり問題でしょうね」
「あら、そうでしたの? それは失礼しましたわ」
平然とうそぶいてみせるあたり、このサリーアという女性、相当したたからしい。
「ともかく立ち話もなんですから、こちらへ。飲み物でも用意させますから。
おばさまもいらっしゃいます?」
タシュアを無視することはなく、だが話には乗らずに進めていく。
「シルファさんが何故ここへ来たかだけは、先にお話させてくださいね。荷物のほうはなんでしたら、お部屋のほうまで運ばせておきますわ」
「結構です」
サリーアの申し出を断る。もとがたいした荷物ではないし、何より他人に触らせたくなかった。
「では、お持ちになったままで」
学院からシュマーの船で直接来たため、タシュアは例の大剣を持ったままだ。
だがそれを、彼女は恐れるふうもなかった。まるで見えていないかのように、ごく自然に振舞っている。
甘く見ているのか、それともよほど自信があるのか。あるいは最初から諦めているのか。だが目の前の彼女の態度は、どれも微妙に違う気がした。
いずれにせよ、かなりの食わせ者なのだろう。
(片腕と呼ばれているのは伊達ではない、ということですか)
案内された部屋で示された席に着くと、お茶と軽食とが出された。
(おや、ありがたいですね)
細身の身体の割に、食べるタシュアだ。
「お口に合うかどうかは分かりませんけれど、どうぞ」
「では、遠慮なく」
口に運ぶと、材料も調理法も手が込んでいるのが分かる。
毒の心配は、別にしなかった。最高権力者のルーフェイアとカレアナがここに居て、なおかつそういう気がないのだから、取り越し苦労になるだけだ。
だいいち彼女らが本気なら、ここへ来る間にどうかなっている。
「それで、シルファさんのことなのですけれど」
間をおかず、サリーアが話を切り出した。
「私に言われても困りますが? 先ほどの様子から見ても、シルファは自分の意思でここにいるようですし」
「……ホントにタシュア、あなた分かってないわねぇ」
話を聞いていたカレアナが、また突っ込んでくる。
「あなたが何かを分かっているつもりなのは、分かりますがね。そのつもりとやらを、私に強要しないでいただけますか」
女性二人が、顔を見合わせた。
少し間を置いて、サリーアが訊いてくる。