Episode:77
ちょうどこちらを向いている車椅子の女性と、話しているらしい背を向けた2人。長身の黒髪と小柄な金髪は、シルファとルーフェイアの組み合わせに間違いない。
向こうが気づいて振り返ったときには、タシュアとカレアナはかなり近くまで行っていた。
何故ここにいるのかと言わんばかりの、シルファとルーフェイアの表情。
(ずいぶんですねぇ)
たしかにおかしな経緯で立ち寄ったが、それを言うならシルファも、ここに居る人物ではないだろう。
とりあえず久々に顔を見たパートナーに、声をかけてみる。
「旅行はどうでした?
それにしても、妙なところへ迷い込んだものですね。シエラの上級生ともあろうものが、ほいほい人の後についていくのは、どうかと思いますが」
瞬間、シルファの表情が変わった。
(怒った……のですかね?)
そんなことを言った覚えはないのだが。
当のパートナーは、そのまま答えない。
「おやおや、話しかけられたのに黙っているとは、休みの間に礼儀まで忘れましたか?」
「――うるさいっ!」
瞬間、シルファが手にしていたバッグが飛んできて、とっさに受け止める。
「なんで取るんだっ!」
「なんでと言われましても」
条件反射を、どうしろと言うのか。
そもそも会うなり物を投げるなど、理不尽にもほどがある。
「何を怒っているのかは知りませんが、ともかく落ち着いてはどうです」
「………」
怒気をはらんだまま、シルファがきびすを返す。
ルーフェイアがおろおろしていたが、母親がうなずいて見せると、急いでシルファの後を追っていった。
「八つ当たりされても、困るのですがね」
「ぜったい違うわよ、それ」
カレアナが突っ込んできた。
「それよりも、ずいぶんと嫌われましたのね」
「そりゃ、そーゆーことしたんでしょ」
なにやら女性2人が、盛り上がっている。
「客に自己紹介もせず、品定めですか。さすが殺人集団は、礼儀が行き届いていますね」
タシュアの言葉に、初めて見る女性が小首をかしげてみせた。
「あら、よくお会いするから勘違いいたしましたわ。そういえば直接顔を合わせるのは、初めてでしたものね」
(やはり、私の存在はシュマーに知られていますか)
彼女の言葉に思う。
もっともカレアナが自分を買い取ったことを思えば、当然とも言えた。加えてシュマーともなれば、学院でこなしてきた多くの任務とその結果も、分かっているだろう。
ただ自分の出自のことを考える、とあまり歓迎できない状況ではある。
(まぁもともとルーフェイアに声をかけたのはこちらですから、自業自得ですか)
ふだんの言動は抜けたところがあるが、彼女とて仮にもシュマーのトップで、しかも戦場育ちだ。危機管理だけはしっかりしている。
だとすれば、タシュアが訓練後に声をかけた時点で、何らかの行動は起こしているだろう。
(気まぐれの行動が高く付きましたかね)
とはいえ、今更だ。
目の前の車椅子の女性のほうは、タシュアの毒舌になにか感じた様子はない。やはりルーフェイアだけが例外で、シュマーはみな図太いのだろう。