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Episode:70

「私たちも……戻るか?」

 他に誰も居なくなってがらんとした庭に、なんとなく言う。

「……ですね」


 二人で日の傾きかけた庭を、屋敷のほうへ戻る。

 夕暮れが迫るたび、少しだけ憂鬱だった。

 休みの終わりが近い。あと数日のうちには、学院に戻らなければならない。


 分かってはいるのだ。何も考えず、ただ帰ればいいのだと。

 なのに、躊躇う自分が居た。タシュアの事を考えるたび、どうにも複雑な気持ちで、ずっとここに居たくなる。


 帰ればタシュアは、何ごともなかったように私を迎えるだろう。そのことが癪に触った。

 いろいろ立てた計画も、ホテルの予約も何もかも、なかったことになってしまう。私一人が、右往左往しただけになってしまう。

 ワガママだとは思いながらも、やっぱりそれは嫌だ。


 そんなことを考えながらルーフェイアと一緒に屋敷へ戻ると、先客が居た。

「姉さん!」

 嬉しそうに、この子が駆け寄る。


 同じような金髪に碧い瞳の……車椅子の女性。年齢は、私より上だろうか? 二十代の半ばくらいに見える。

 姿は似ているが、ルーフェイアのような優しさや儚さよりは、強さを感じる人だった。


「姉さん、いつ来たの?」

「さっき、着いたところよ。

――ルーフェイア、そちらが先輩かしら?」

 彼女の言葉に、慌てて頭を下げる。


「おじゃまして……すみません。シルファ=カリクトゥスです」

 私の挨拶に、彼女が微笑んだ。

「こちらこそ、挨拶するのが遅れて申し訳ありませんでした。サリーアと申します。ルーフェイアの従姉ですわ。

 シルファさんのことは、ルーフェイアからよく聞いております」

 丁寧な言葉遣いに、にこやかな表情。だがなぜか、圧倒される。


「何かご不自由なことがないと、いいのですけど。ここの者にはよく申し付けておきましたが、大丈夫でして?」

 この人を前にして「問題がある」と言える人が、いるのだろうか。一瞬、そんな思いが頭をよぎった。

 理由が分からないが、ともかくそういう感じの人なのだ。


「何かあったら、遠慮なく言ってくださいね。ルーフェイアはこのとおり、抜けた子ですから」

「姉さん……」

「あら違ったの?」


 少し怒ったようなルーフェイアと、面白そうに笑う従姉のサリーア。どうやらここでもルーフェイアは、オモチャにされているようだ。

 拗ねる様子が可愛くて、気の毒と思いながらも、私もつい笑う。

 サリーアが、ルーフェイアの頭を撫でてやりながら言った。


「お夕食はどうなさいまして? もしご予定がなければ、私もご一緒させていただければと、思うのですけれど」

「あ、はい、もちろん」


 気づくとそう、答えていた。だいいちこの状況で、断れるわけもない。

 この女性が、にっこりと微笑む。

「嬉しいですわ、許していただけて」


 言葉遣いといいしぐさといい、ルーフェイア以上にしとやかそうだ。どこかの貴族の娘と言っても、通用するかもしれない。

 そこへ、ここの人らしい男性が来た。私たちの手前で止まって、丁寧に一礼する。

 サリーアが私たちに会釈して、男性を近くへ呼び寄せた。





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