Episode:69
「この子たちは?」
訊くと、少女が視線を落として答える。
「うちの子たち、なんです。
身体が弱い子が多くて……ここでよく、静養してて」
詳しくは分からないが、どうやら関係者の子供たちで、ここへ静養をかねて遊びに来ているらしい。
慣れているのだろう、「あーあー」と言葉にならない声をあげる子に、ルーフェイアは優しく微笑んだ。
「もう、お部屋に帰る? お腹空いたでしょ?」
驚いたことに、話しかけられた子たちが嬉しそうに笑った。
「……先輩?」
「いやその……こういうふうに、笑うんだな」
シエラには、こういう子は居ない。だからこの年まで、こんなに間近にこういう子たちを、見たこともない。
たまに町で遠目に見ながら、何も分かっていないのではないか、そう思っていた。
だが、それが間違いだったと気づく。この子がルーフェイアに向けた笑顔は、限られた能力で意思を伝えようとしていることを、はっきり示していた。
「だー?」
「あ、えっとね……あたしの、先輩。いい人よ?」
ルーフェイアの説明が通じたのだろう。ひとりが私の前に来て、見上げた。
お世辞にも聡明とは言えない、そういう表情。その顔が、笑顔に変わる。
――可愛かった。
初対面の私を、好きだと言っているのが分かる。
「……はじめまして」
言ってこの子の頭を撫でると、さらに嬉しそうな表情になった。
その笑顔につられて、私もつい笑う。身体こそけっこう大きいが、シエラに居る小さい子たちと、変わらないと思った。
「グレイス様ー、すみません、助かりました」
声に振り返ると、見知らぬ女性が手を振りながら駆けてくる。
「あの子、やっと落ち着いて。ありがとうございました」
「ううん。あたしも久しぶりに、みんなに会えたし」
短いやり取りのあと、女性が子供たちに声をかける。
「さ、おやつあるから帰ろうね」
世話係なのだろう、子供たちは大喜びで女性のあとをついていった。
「やっぱりああいう子の世話は、いろいろ……たいへんなんだな」
「ええ……」
ルーフェイアは否定しない。つまり、そういうことなのだろう。
「いつも、あの子たちと遊ぶのか?」
「えっと、ここじゃない実家なら、いつもです。
うち、ともかく手が足りなくて……でもあたしでも、遊ぶのはできるので」
なんだかいまいち要領を得ないが、要するにたまに帰る場所では、いつも相手をしているらしい。だから慣れているのだろう。
同時に、面白いところだと思う。
いままでのいろいろなことを見るかぎり、ここでのルーフェイアの立場は、間違いなく「令嬢」に相当するものだ。なのにそれが、走り回って手伝いをしているというのだから、かなり変わっている。
気さくなここの人たちといい、ふつうの「お屋敷」とは、少し違うようだった。