Episode:64
(どこへ行ったのやら)
どちらにしてもこれだけでは、何が起こったかなど分かるわけもない。
少し考える。
事前の申請は書類で提出されているため、魔視鏡で調べることができない。理由をつけて教官から引き出すこともできないわけではないが、面倒だった。
ならばと矛先を変えて、最後の通信元である泊まっていたはずのホテルの記録へ、タシュアは潜り込んだ。
(っと、これですね)
目当ての記録はすぐに見つかった。だが、すでにシルファはチェックアウト済だ。要するにホテルを出たあと船に乗って戻るはずが、そのまま行方不明、ということらしい。
(まぁ自分から連絡をしている以上、問題はありませんか)
その辺の下級生ならともかく、上級隊の資格まで持つ上級生だ。自分のことくらい、自分でどうにかできなくては困る。
そんなことを思いながら記録を眺めるうち、妙な点に気がついた。
(2人で宿泊していますね……)
シルファがいちばん誘いそうな友人というと、知る限りではディオンヌだが、彼女は先ほどの通りだ。
だとすると、他の誰かを誘ったか。
当たり前だがシルファが所属しているクラスには、ディオンヌ以外にも女子の上級傭兵がいる。その中に、仲の良い相手でも増えたのかもしれない。
いずれにせよあと数日で、休みも終わる。その頃になればいくらシルファでも、戻ってくるだろう。
ならばその間に、少しでも例のものを片付けてしまおうと、タシュアはまた作業にかかった。
が、手をつけたところで、通話石で呼び出される。
『タシュア=リュウローン、今すぐ学院長室へ』
学院生である以上仕方ないとはいえ、人の都合などまったくお構いなしの扱いだ。
(自分がやられたら、怒るのでしょうに)
立場に対して頭を下げるなど、タシュアにはない。敬意が欲しいなら相応のところを見せるべきで、それもせずに望むほうがおかしいという考え方だ。
――まぁそれでもここの学院長は、まだマシな部類だろうが。
長い渡り廊下を抜け、管理棟の最上階まで行く。この学院はゆったり造られているのはいいが、そのぶん移動が面倒だ。
ほどなくタシュアは、がっちりした扉の前に着いた。ノックして、部屋の奥に声をかける。
「タシュア=リュウローンです」
「おはいりなさい」
相変わらず、のんびりとした声だ。
(年少組みでは、開けられないでしょうに。防御としても不十分ですし)
そんなことを思いながら、どれだけ歴史があるのかという、重厚な扉を開ける。
瞬間タシュアの表情が、さらに冷たさを増した。
目に入ったのは、いつものように穏やかな学院長と――机の隣に立つ女性。
シエラ本校の生徒なら、誰でも簡単にこの女性の素性を言い当てるだろう。それほどまでに、ルーフェイアとよく似ていた。
ただし、それは外見だけだ。
「久しぶりねぇ、相変わらず元気そうじゃない」
野性味と妖艶さが同居した、独特の雰囲気。学院生くらいの年頃なら、後を追いかけるものが出かねない。
――タシュアが気を惹かれた様子は、一切なかったが。
それどころか、嫌っているのを隠そうともしない。