Episode:57
「すまない、二人とも助かったよ」
姿が遠ざかるのを見ながら、先輩が言う。
「正直、もうこの村を出るしかないと思ってたんだ」
そこまで聞いて初めて、いまの村長とのやりとりだけでなく、竜退治のことも言われていたのだと気づく。
「本当は正規の謝礼を、出すべきなんだろうが……」
「先輩、気にしないで下さい。それに私たちも……学院に知れたら、困ります」
シエラ出身の先輩が笑った。うっかり外で勝手に依頼を受けて、大騒ぎになるというのは、他の人たちには分からないだろう。
「そう言ってもらえると助かるよ。
――とりあえず、部屋へ戻ったほうがいい。そろそろ新しい部屋も、用意出来てるだろうし」
ルーフェイアを連れてホテルへ戻ると、案の定「移る用意が出来ている」と知らされた。
「僕も手伝おう」
部屋からルーフェイアが持ち出そうとした荷物を、先輩が持つ。
「ルーフェイア、先に先輩と、新しい部屋へ行っててくれ。私はその、細かい荷物を……詰めてから、行くから」
さすがに干しておいた下着や何かを、先輩に見られるのは嫌だった。
「おいで、ルーフェイア。案内してあげるよ」
「はい」
素直にルーフェイアが、先輩についていく。
これならしばらくは、戻ってこないはずだ。なにしろルーフェイアは独りを嫌がる甘えん坊だし、先輩はタシュアと違って、それを邪険に出来る性格ではない。
いまのうちにと、急いでいろいろ鞄にしまう。
だが思いのほか早く、ドアがノックされた。
「入ってもいいかな?」
「あ、はい」
手に持っていたものを慌てて押し込んで、口を閉める。
入ってきたのは、先輩ひとりだった。
「ルーフェイアは……?」
「あの子なら、着替えてるよ。戦闘服のままだったからね」
着替えには同席できなくて、こちらへ来たらしい。
――構わなかった気もするが。
体型もまだまだ子供だし、カーテンを全開で着替えてしまうあたり、そういう感情もまだ育っていない。
まぁあのままでは、先々困るだろうが……。
「荷物は、それだけかい?」
「あ、はい」
私の荷物に手を伸ばして――先輩が、動きを止める。
「先輩?」
「その、前から君に言おうとは思ってたんだが……」
なんだか深刻そうだ。
「えぇと、また、竜でも?」
私の言葉に、先輩が苦笑した。何か的外れなことを言ったらしい。
「そういう話じゃないんだ。
――卒業したら、ここへ来ないか?」
「は?」
何を言われたのか分からなくて、しばらく考える。