Episode:56
どうしようかと思いつつ、ルーフェイアを見る。
――辛そうな、表情。
その唇から、小さく言葉がつむがれる。
「あたしは……例外です」
泣きそうになりながら言った言葉は、嘘がないだけに説得力があった。
そのルーフェイアが、話し出す。
「あのクラスの竜だと、シエラでも安全を考えれば、上級が3名は必要です。ですからきちんと……どこかの組合に、依頼なさってください」
「いや、だが、そうは言っても……」
「――村長」
言葉を切ったルーフェイアが、村長を真っ直ぐ見る。
この子が滅多に見せない、強い瞳だった。
「もし医務官に……竜退治を依頼して死なせたりしたら、どこの組合にも、依頼を受けてもらえなくなります」
「なんと……!」
さすがの村長が青ざめる。
「い、依頼を受けないとは、それはどうして……」
「医務官は戦闘員ではなくても、プロです。そのプロの意見を無視するところの依頼は、どこも受けません。命が惜しいですから。
仮に受けたとしても、おそらく通常の数倍の値段です」
理路整然とした話に、私までが圧倒される。ふだんのおとなしくて気弱なようすが、嘘のようだ。
だが同時に、どこかで納得してもいた。
以前任務に同行してもらったときにも、戦闘関係となるとこの子は、信じられない観察力と判断力を見せた。裏を返せばそれだけ……過酷な環境をくぐり抜けてきたのだろう。
泣き虫で甘えん坊のこの子が持つ、そういう一面は、驚きを通り越して悲しかった。
「村長、この子の言うとおりです。ですからもう、こういうことは二度と……」
ルーフェイアの頭を撫でてやりながら、言う。きっと内心では、この子はこういう自分を、嫌っているだろう。
「……分かりました。事情をよく知らず、危うくとんでもないことをするところだったようですね。
お嬢ちゃん、教えてくれてありがとう」
「お嬢ちゃん」と呼ばれたのが嫌だったのか、一瞬ルーフェイアが、不満そうな表情になる。いちおうその辺のプライドはあるらしい。
――見かけが見かけだから、誰も年相応には扱わないだろうが。
ようすに気づいた村長が、慌てて言いつくろった。
「いやいやごめん、別にお嬢ちゃんを子ども扱い――あ」
私もクーノ先輩も、これには思わず笑い出す。
村長もバツが悪そうに頭を掻いた。
「まぁその、もう 先生に頼むなんてことはしないから。お嬢ちゃん、それで許してくれないかな?」
言いつくろうのを諦めたのだろう。そんなふうに言う村長に、ルーフェイアも微妙な表情ながらうなずく。
「許してくれてありがとう、お嬢ちゃん。
では私は次がありますので、これで失礼をば。部屋の用意が出来たら、どうぞ移ってください」
そう言って、村長が出て行った。