Episode:55
「もう席は用意してあるから、先に行って始めていてもらえないか? 私もすぐに、挨拶に行くから。
それと酒場のマドさんに、追加の酒と料理を誰か頼んでおいてくれ。私のおごりだからいいものを頼む、とね」
村長の言葉に、村人がわっと沸き立った。このぶんなら私たちが出ないことも、そんなに問題にはならないだろう。
「すみません……かえって、面倒になって」
「いえいえ、お気になさらず」
辺りが静かになったところで謝ると、村長はそうにこやかに返してくれた。
「こちらとしても非公式な依頼になってしまうのを、うっかり失念していましたからね。盛大に公式の会食をせずに済んで、良かったくらいですよ」
こういうふうに返せる人だからこそ、今の地位になれたのかもしれない。
「とはいえ、何もしないのでは収まりがつきません。ホテルのほうに言って、良い部屋を用意させたいのですが……そのくらいは、お許しいただけますかな?」
「え、あ、でも……」
こういうのは、受けていいものなのだろうか?
困って先輩のほうを見る。
「村長もまったく何もしないじゃ、あとで立場的に、いろいろ困るんだよ」
「なる……」
そういう世界ではちょっとしたことで、いろいろと言われたりするのだろう。
「では、部屋を用意させますので。準備が出来たら、こちらに人を寄越すよう言っときますよ。
では、次があるのでこれで」
「あ、その、待ってください!」
帰ろうとした村長を呼び止める。
「なんでしょう?」
「あの、こういうことは……もう、なしにしてもらえませんか?」
意味が伝わらなかったのだろう、村長が怪訝そうな顔になった。
少しの間が合って、聞き返してくる。
「『こういうこと』とは、今回の竜退治ですか?」
「はい」
話下手な自分に、どこまで出来るか。だがこれは、誰かが言わなければならないことだった。
「先輩は、たしかにシエラの卒業生ですが……医務官です。だから、戦闘訓練は受けてません」
「そうなのですか? でもシエラに在学しているあなた方は、あのとおりの強さでしょう。私たちに比べれば先生も、ずっとお強いと思いますが」
「いいえ」
ダメかもしれないと思いつつ、はっきり言ってみる。
「先ほども言いましたが、先輩は医務官です。そして医務官は通常、自衛のための訓練しか受けません。これはシエラも同じです。
ですから竜相手の戦闘は、ほぼ不可能です。もし退治に向かえば、間違いなく返り討ちでしょう」
だが村長は、聞く耳を持たなかった。
「その話は何度も聞きましたよ。でもじっさい、そこのお嬢ちゃんでさえ竜を倒せるじゃありませんか」
「それは……」
さすがにこれは、上手く説明できない。




