Episode:51
「遥かなる天より裁きの光、我が手に集いていかずちとなれ――」
同属性の呪文が、精霊のふるう力とほぼ同時に発動する。
「ケラウノス・レイジっ!」
二重に発動した雷撃が、辺りを薙ぎ払った。あの独特の、大気の焼けるにおいが漂う。
さすがに効いたのだろう、動きを止めた竜たちの中へ、私は踊りこんだ。
1匹の首をかき切り、返す刃でもう1匹の胸を突く。
向こうでもルーフェイアが、残る1頭の懐へもぐりこみ、太刀を急所へ突き立てる。
念のために3頭の竜の首を落とし、絶命したのを確認して……それですべて終わりだった。
ルーフェイアと二人、緊張を解く。
「だ、だいじょうぶかい?」
まだ興奮しているのだろう、少しうわずった声で、先輩が訊いてくる。
「問題ありません。まだもしかしたら、別のやつが残っているかもしれませんが、今は平気です。
ケガした方を連れて行くなら、いまのうちにお願いします」
私の言葉にうなずいて、 先輩が診療所へと車を出す。ただ言葉とは裏腹に私自身は、とりあえずここまでだろうと思っていた。
このタイプの竜はたしかに知能は低いが、学習能力がないわけではない。仮に他にいたとしても、一瞬で3頭も倒されれば、とうぶんは人間を警戒する。
だから当面は、問題ないはずだ。
――それにしても。
当たり前の顔をして、太刀をざっと手入れしているルーフェイアに、舌を巻く。この子が強いのは分かっていたが……ここまでとは思っていなかった。
やったこと自体は、誰でも出来ることだ。力を発動するまでに時間がかかる精霊と、もっと早く発動する通常の魔法。この2つを組み合わせたに過ぎない。
通常の魔法はもちろん、威力のある精霊でも、範囲を広げれば効果は落ちる。だからさっきのように竜を3頭もとなると、精霊でもダメージは薄かった。
それを通常魔法で補強して、一時的にでも動きを止める。いい戦術だ。
だがとっさに判断を下し実行出来る人間は、そうはいないだろう。私も今まで思いつきもしなかったし、今すぐやれと言われれば不安が残る。
周囲の人間に被害が及ばないかどうか、じっさいに間に合うかどうか、重なった威力がどうなるか。そういったさまざまな要件を加味した上で、一瞬で判断しなければいけないのだ。
いつ覚えたのかは分からないが、この子の年齢を考えると驚異的だった。
そしてまた、疑問も覚える。
――何故、と。
強いのは分かる。戦場育ちなのも分かった。鍛えているのもたしかだし、何よりこの子は場数を踏んでいる。
だがそれでも、疑問が残るのだ。
タシュアの強さは、たしかに同じように桁外れだが、理解できる範疇だ。パワー、スピード、魔力、それに冷静な分析と頭の回転の速さ。加えて、いままでにくぐった修羅場の数。こういったものが組み合わさることで、常人離れしたレベルに達している。
だがこの子は……アンバランスすぎた。
泣き虫で繊細で優しいルーフェイアが、戦闘となるとなぜこれほど的確に行動し、敵を屠っていけるのか。
先日の病院テロでのことといい、得体が知れない部分があるとしか、言いようがない。