Episode:50
「精霊って、武器、くれましたっけ……?」
「ふつうは、ないらしいな」
ただ私の精霊は、どうも少し変わっているらしい。個性がはっきりしているのか、好き嫌いがきちんとあるようで、向こうから私についてきた。
武器は、そのときに一緒にもらったものだ。だから正確には私のものでなく、精霊の物だった。
話を聞いたルーフェイアが、うらやましそうな表情になる。自分も欲しいのだろう。
「ルーフェイアもいつか、見つけられるといいな」
頭を撫でてやると、この子が嬉しそうにうなずいた。
武器を一旦、元のブレスレットに戻して、歩き出す。
「あ、良かった、ちょうどいいところに」
歩いている途中で、受付けの人と鉢合わせした。
「迎えが来ましたから。いまご案内します」
「すみません」
彼女の案内で用意された車に乗り込み、さらに現場へと急行する。
辺りはあちこち血に染まって、すでに到着していた先輩が、手当てに奔走していた。
「だいじょうぶですか?」
ブレスレットを外して武器に戻しながら、声をかける。
「いま村の若いのが、足跡を追ってるらしい。すぐ連絡が入ると思う――ザムスさん、そっちを持って!」
重傷者のことで、先輩は頭がいっぱいのようだ。
「仕方ない、少し待機だな……ルーフェイア、どうした?」
隣のルーフェイアが、険しい表情を見せている。
視線は……少し先の、林だ。
「――来ます」
言ってこの子が、太刀に片手をかける。
近づいてきたのだろう、こんどは私にも気配が分かった。
次の瞬間、茂みを突き破るようにして、竜が現れる。一気に迫ってくるのを、進路へ割り込んで大鎌を振るい、けん制した。
だが。
「2匹目?!」
幸い訓練の成果で、考えるより先に身体が動く。いちばん近いものを薙ぎ、勢いを利用して反転、もう1頭の手を切り払った。
「クーノ先輩、出られますか?!」
車に乗ろうとしている、先輩に声をかける。
「今もう――うわっ!」
悲鳴。こちらの2匹を相手にしている間に、もう1匹が回りこんだらしい。
一瞬のためらいもなく、ルーフェイアが呪文を放った。
「トォーノ・センテンツァっ!」
小さな雷撃が命中して、3頭目の動きが止まる。
「いったい、何匹いるんだ?」
「分かりません。血の臭いで、集まってきたのかも……」
もっともいまは、悩んでいる暇はない。
「先輩、精霊――いきます!」
防御呪文を車にかけながら、この子が言う。
「分かった。
――先輩! 車から出ないで下さい!」
私が警告している間に、ルーフェイアが召喚の呪を唱え出した。
「鳴り響く時の内に棲む者よ、その稲妻持ちて我が敵を打ち砕け――来いっ、アエグルンっ!!」
呪に誘われて、虚空から精霊が姿を現す。力が発動すれば、どれか1匹は動きが止まるだろう。
この状況で数が1つでも減れば、戦局が変わる。
だがルーフェイアは、それでは済まさなかった。