Episode:47
「大きさと種類と数が分かれば、必要な戦力が分かります。それから考えても、遅くありません」
正論だ。
先輩は一瞬あっけに取られていたが、ルーフェイアの質問に答え始めた。
「大きさは……足跡から見るかぎり、そうでもないかな。頭のてっぺんまで、大人の倍くらいだと思う。
数はおそらく1体。見た人がみんな、顔に傷があったと言ってるから、まず同一だろう。
種類は、翼のない肉食のヤツだって聞いてる。ほら、立って歩くタイプの」
「じゃぁ、トカゲの大きいのですね」
なんだか語弊のある言い方だが、あながち間違いでもない。
この手のものをひっくるめて「竜」とよく言うが、実際には種類が細かく分かれる。人間のように言葉を操り魔法まで使うものもいれば、火も吐けず空も飛べない下等なもの、走竜のように草食で人間が使役するものまで、さまざまだ。
今回は幸い、その下等種らしい。
「これなら、2人ならなんとかなりませんか?」
「そうだな」
私1人でもぎりぎり倒せるだろうし、ルーフェイアがいるなら問題ないだろう。
そもそもよく考えてみれば、シエラをよく知る先輩が、傭兵隊の私に話を持ってきたのだ。倒せないわけがない。
むしろ驚いたのは、先輩のほうだった。
「ちょ、ちょっと待て。引き受けてくれるのは嬉しいが、その子が出ることはないだろう!」
思わず2人で、顔を見合わせる。
「本校に直接入学したのは、僕も聞いてる。けど記憶じゃ、まだ7年生だろう? やっと春から、本格的な模擬戦を始めたくらいじゃないか。
そんな子を出したら、餌食になるだけだ」
先輩の言葉をしばらく反芻して、やっと意味が分かった。要するに先輩はルーフェイアが、シエラの他の子と同じ程度にしか、戦えないと思っているのだ。
「先輩、この子なら、大丈夫です。去年の秋から、任務に同行してますし……ケンディクの病院立てこもり事件じゃ、いちばんの立役者でした」
「――え?」
唖然というのは、こういうことを言うんだろう。ぽかんと口を開けたまま、先輩が石化した。
「先輩?」
「あ、いや……驚いたな。ルーフェイアが本校に直接入ったのは、そのせいだったのか。
あぁでも、よく考えればタシュアもそうだな。その前例を見れば分かることなのに、気づかないとは僕もボケたな」
とても頭がいい人だから、だいたいの事情をこれだけで察してしまったらしい。
「そしたら悪いんだが、装備を整えて、明日にでも出られないか? 僕も補助や支援ならできるから、一緒に行くよ」
「はい」
目撃情報や遭遇場所のデータはもうまとまっているだろうが、そこへ行ったからといって、首尾よく出会えるとは限らない。それに追い詰めても、取り逃がすことだってある。
ここに滞在中に片付けることを考えると、明日でも遅いくらいだ。
とはいえ、村には村の事情があるだろう。今日の今日というのが難しいのは、当たり前の話だ。
「装備なんかで、必要なものはあるかな? 完璧にとはいかないけど、僕のツテで出来るかぎり揃えるよ」
「すみません、助かります」
シエラの傭兵隊は、装備の代わりに魔法でかなりを補うから、戦闘力のわりに軽装だ。だがさすがに旅行に来たままで、出るわけにはいかなかった。