Episode:46
「それが……竜が、出たんだ」
「竜、ですか?」
思ってもみなかった話に戸惑う。
竜が村にとって問題だというのは、分かる。どこの村でもそのために、魔獣退治も兼ねてだが、予算を割いているくらいだ。
だが裏を返すなら、そのくらいありふれた話ということだ。だから部外者の私たちが、出る幕などない。
同じ事を思ったのだろう、ルーフェイアも怪訝そうな表情だった。
「あの、村の、警備の人は……?」
もっともな疑問を口にする。
魔獣への対処は、地方ほど必須だ。ここのように自然の豊かな場所なら、必ず村で手練を雇って、10名ほどは常駐させている。
まぁそれでも、俗に古代竜と呼ばれる超大型だったら手に負えないが……そんなものなら、私一人が増えたところで大差はない。どこかにきちんと依頼しなければ、無理だ。
訝しがる私たちに、先輩が説明を始めた。
「この村、去年山火事でかなり被害がでたんだ」
「あ、そういえば……」
いっとき話題になったから、覚えている。
「幸いこの辺は、大した被害はなかったんだけどね。南部のほうはものすごくて、まだ焼け野原のところもあるんだよ。
で、そのせいで村が、警備人を常駐させられなくなってね」
「でも、単発の依頼をすれば……」
この村のように、警備人を常駐させられなくなることは、稀にある。だが魔獣は、そんなことには構わない。
だから常駐をやめてもどこかの組合に頼めば、すぐ臨時の討伐隊が派遣されるようになっている。
が、答えは予想外のものだった。
「それなんだが、僕がシエラの出身だろう? 退治してくれと言われてしまって……」
「そんなムチャな!」
たしかに先輩はシエラ本校の卒業だが、医務官だ。魔獣相手に戦えるわけがない。
「僕もそう言ったんだけど……村の人には、区別がつかないんだ。シエラの本校を出てるなら、誰でも竜くらい倒せると思ってるんだよ」
それで、ほとほと困っていたのだという。
「村のお金は底をついてるし、僕が倒せば万事解決って言って、きかないんだよ。
そこへ君が来たって話しを聞いたもんだから、つい……」
「そういうことですか……」
軍と関係ない人には、こういった職種の違いは分かりづらいとはいえ、困ったことだと思う。じっさいこういうケースで卒業生や在校生が、命を落とすことがあるのだ。
「虫のいい話なのは分かってるけど、力を貸してもらえないか?」
答えに詰まる。
力は貸したい。だが相手は竜だ。私一人では、手に余る可能性があった。
「あの、竜って……大きさは、どのくらいですか? あと、数と種類は?」
「ルーフェイア!」
横から口を出してきたのを、思わず叱り付ける。この子が強いのは確かだが、無謀すぎだ。
だが珍しく、ルーフェイアは引かなかった。