Episode:45
「誰かに、言ったんですか?」
「いや」
そもそも言う相手がいない。なにしろ旅行で来ただけなのだ。
唯一可能性がありそうなのは、宿泊名簿にシエラ学院の名前を書いたことくらいだが……そこから分かったのだとすると、客の情報を漏らす信用のならないホテル、ということになる。
――変えたほうがいいかもしれない。
こんなふうに簡単に情報が流れるところに泊まるのは、かなり不安だ。
そんなことを考えながら、管理棟のドアを開ける。
「やあ、久しぶりだね。呼び出してごめん」
誰かが先輩の名前を、騙っているかもしれない。そこまで考えていたが、さすがに思い過ごしだったようだ。
「クーノ先輩、お久しぶりです」
栗色の髪に茶色の瞳。ちょっと気の弱そうな、おとなしげな雰囲気。以前と変わらない印象だった。
その視線が、私の隣へ移る。
「たしか君は、本校に年度途中で転入した子だよね?」
「あ、はい」
まさか自分のことまで知っていると思わなかったのだろう、ルーフェイアが目を丸くした。
「名前は……ルーフェ、だっけ?」
「えっと、その、ルーフェイア=グレイスです」
答えてぺこりと、この子が頭を下げた。金の髪がさらさらと落ちる。
「あぁそうだった、ルーフェイアだね。ごめん、よく覚えてなくて」
ありきたりの会話。だが先輩がわざわざ訪ねてきたのは、こんな話をするためではないだろう。
思い切って、切り出してみる。
「その、先輩……どうして私たちがここに居ると、分かったんです?」
「ここは小さな村だから、なんでも噂になるんだよ」
答えに呆れる。
たしかにここは、ノネ湖周辺では小さい村だ。だから噂が広まりやすいのだろう。
だがそうだとしても、平然と客の情報を流すというのは、私には考えられなかった。たしかこの村は、観光が主な収入源なのだからなおさらだ。
「ごめん、村の人は悪気はないんだ。ともかく、娯楽のないとこだから」
そうは言われても、納得は出来なかった。
私の様子に気づいたのか、先輩が少し話を変える。
「そのさ、僕はいまここで、診療をやっててね」
「そうだったんですか」
シエラの中でも飛びぬけて頭の良い人で、卒業とほぼ同時に医務官の資格を取ったというのは、私も聞いている。歴史の長いシエラの中でも、初めてのことらしい。
「まぁたいして経験があるわけじゃないんだが、こういう小さい村は無医村になりがちだろう? だからこんな僕でも、重用してくれるんだよ」
シエラの卒業生といえば、ほぼ全員が軍かその関係に進む。だがこういう進路もあるのだと、目から鱗が落ちる思いだった。
「で、診療所の患者さんたちは、どうにも噂好きでね」
「なるほど……」
医師なら、後輩が泊まりに来てるという話が知らされるのも、十分ありえるだろう。
「でも先輩、なぜ会いに?」
いきさつはだいたい分かったが、肝心のところが分からない。「せっかくだから会いに」と押しかける人もいるが、この先輩はそういうことを好まない性格だった。
先輩が視線を落として、話し始める。