Episode:43
「ルーフェイア……」
先輩がそばへ来て、あたしのことを抱きしめる。
何か言おうと思ったけど、言葉にならなかった。先輩の腕の中で、泣くことしかできなかった。
どうしてあたし、いっしょに死ななかったんだろう……。
「ルーフェイア、ダメだ」
先輩の腕に力が入る。
「死んだら、ダメだ」
先輩の言いたいことは、よく分かった。
でも、頷けない。自分だけ生きていくのは、辛すぎる。
このまま消えてしまいたい。それが本音だった。
誰も居ないところへ。何もないところへ。そうすれば二度と辛い思いを、せずにすむから……。
そのとき、風が通り過ぎた。
はっとして顔を上げる。
「どうした?」
不思議そうに訊いてきた先輩も次の瞬間、驚いた表情になった。
「いま、何か……」
「……はい」
気のせいだと言われれば、そうかもしれない。けど、そうじゃないと信じる自分がいた。
「それ、兄貴だろ。そゆこと、あるっつーし」
イマドは気づいてるうえに、平然とした顔だ。しかもなぜか、手にしたシャベルで地面を掘り返している。
「なに、してるの……?」
こんなものを持っていたのも謎だけど、やっていることはもっと謎だ。
「夕べ叔父さんがさ、そーゆー話ならこれ持ってって、植えてこいったんだよ」
言って彼は、走竜に積んでいた袋から、何かの苗を出した。
「ここらじゃ、墓とかにこれ植えんだよな。白いきれいな花、咲くんだぜ?」
「そうなんだ……」
手にとって見ると、たしかに白っぽい、大きなつぼみがついている。もう少ししたら、開きそうだ。
「ホントは植える時期じゃねぇんだけど、もともとこの森のモンだからだいじょぶだろって、叔父さん言ってた。
ほら、お前も手伝えよ。先輩もやります?」
「あ、あぁ、そうだな」
あたしと先輩も、シャベルを渡される。
10個ちょっとの苗は、すぐに植え終わった。さいごに水筒で水を汲んで、たっぷりとかける。
「咲く、かな……?」
「咲くだろ。それに叔父さんとかもたまに、見に来きてくれるってたし」
言って、イマドが笑った。
「落ち着いたみてぇだな」
「え? あ、うん」
花を植えたのと、何よりあの風のせいだろう、と思う。
あの時、風は囁いた。
――無事でよかった、と。
ただの空耳かもしれない。あたしの思い込みかもしれない。
でもその瞬間、感じた。兄さんが最期に願ったのは、そのことだったのだと。
だから……思う。
その願いに従おうと。生きていこうと。
先輩が、あたしの頭をそっと撫でた。