Episode:40
「いまどき走竜は、珍しいな」
「坂がけっこう急だから、コイツじゃないとダメなんですよ」
「なるほど……」
たしかに急斜面は、そのほうが安全だ。
イマドの案内で、知り合いだという竜舎へ入る。
「おー、来たか来たか。ほら、そこの使えや」
気さくそうな男の人が、入るなり声をかけてきた。
指差す先にはおとなしそうなのと、傷だらけで見るからに凶暴そうなのとが、用意されていた。
「案内と竜使いは要らないんだろ? 悪いがかき入れどきなんで、今言われても用意できないぞ」
「ええ、だいじょぶです」
言いながらイマドが、おとなしそうなほうを指し示した。
「先輩、そっちのに。
ルーフェイアは、俺といっしょな。ひとりじゃ乗れねぇだろ」
「え? いちおう、乗れるけど……」
「マジか?」
驚く私たちに、ルーフェイアが答える。
「前線で、たまに乗ったから……」
「あー、それがあったか」
話を横から聞いていて、はっとする。いま確かにルーフェイアは、「前線」と言った。
――だとしたら、やはり。
学院内でも「少年兵あがりらしい」との噂はあったのだが、噂ではなく事実だったようだ。
ただルーフェイアは、口をすべらせたことに気づいていなかった。振り返って竜舎の管理人を見てみたが、彼も向こうで走竜の世話をしていて、聞いていなかった。
このまま知らぬふりで、黙っていようと思う。
本人が自分の戦闘能力を嫌っているのは、一目瞭然だ。それに前線というのは私も任務で出たことがあるが、とても過酷で……正気でいられない者までいる。
何よりあのタシュアでさえ、激戦の最前線でのことは、必要がなければ口にしない。
そういう場所をうっかり口にして、この優しい子に思いださせたくなかった。
ルーフェイアとイマドは、ほほえましい会話を続けている。
「まぁいいや、今からじゃめんどくせぇし。ほら、先に乗れよ」
「うん……」
口でそう言いながらも、この子がためらった。
「どした?」
「この子、暴れない……よね?」
さすがのルーフェイアも、凶悪そうな外見に恐れをなしたようだ。
「あー、コイツ見かけアレだけど、へーきへーき。よく言っといたし」
「……言葉が走竜に通じるのか?」
思わず突っ込む。言葉が通じるくらいなら、暴れる走竜に手を焼く騒ぎなど、起こるわけがない。
「まぁ、細かい事はいいじゃないですか」
「いいのか……?」
何か納得がいかないが、深く考えないほうがいい気はした。この後輩、何と言うか妙なところで、常人とかけ離れたところがあるのだ。
ルーフェイアのほうはあっさり納得したようで、走竜に近づき、手をかけた。
そのまま軽々とまたがる。乗っていたというのは、本当のようだ。
「先輩、行けます?」
「ああ」
私も走竜にまたがった。傭兵隊に入っている学院生は、カリキュラムに入っているから、走竜には全員乗れる。