Episode:04
「ああ、すまないすまない。ちゃんと言わなかったからね。
気にいったのがあったら、ぜひ持っていってくれないかな? なにしろこの通り、溜まって困ってしまってるんだ」
「え……?」
あまりにも唐突で、言われたことが良く飲み込めない。
「あの……??」
この人がまた、笑った。
「だからね、ここから好きなものを持って行きなさい。幾つでもいいよ」
「――えっ?」
目が点になるとはこのことだ。
ミルのお父さんが持っている服の数は、決して少なくない。しかも店先に飾ってあったものから考えて、かなり値も張るはずだ。
それを、あっさりと「持っていきなさい」だなんて……。
「けど、その、高いもの……ですし……」
「遠慮して偉いなぁ。でも本当に、持っていっていいんだよ。処分に困ってるくらいだからね。
――うーん、これなんか似合うかな?」
「あ……」
お父さんが選んでくれた服に、思わず視線が釘付けになった。
さっきウィンドウのところで見ていたものに似てるけど、もっとセンスがいい。
「うんうん、思った通りだ。背が高いからこのモデルサイズで、そのまま大丈夫だね」
「モデルサイズ……?」
不思議に思っていると、ミルのお父さんが説明してくれた。
なんでも最初に試作品?を作る時は、モデルさんが着ることを考えて、普通より高い身長に合わせて作るらしい。
そしてここにあるのは、そうやって作ったものの一部なのだそうだ。
「モデルの子に売ったりあげたりってことも、多いんだけどね。ただ私は取っとくのが好きなもんだから、この通りなんだ。
あ、これも良さそうだねぇ」
話をしながら、幾つか選び出してくれる。
「ほら、この辺なら好みじゃないかな? サイズも良さそうだしね」
「でも……」
勝手に話が進んでしまったが、ミルのお父さんが手にしているのは、そのあたりの安物ではない。
それどころか、普通だったら絶対に買えないようなもので……。
けどお父さんは、選び出した服を私に持たせた。
「着てあげないと、服も可哀想だしね。
だから、持っていきなさい」
こう言われてしまっては、もう断れなかった。
「――すみません」
「いいんだよ。
さぁ、包んでおいてあげるから、他の買い物でもしておいで」
優しく外へと促される。
「本当にすみません、ありがとうございます」
それしか言えない私に、ミルのお父さんは言った。
「いや……このくらいしか出来なくて、申し訳ないよ。
君たちが大変なのは、分かっているのに」
それから、少しだけ笑って言った。
「何かあったら、いつでも来て構わないよ。大歓迎だ。服は余って、困っているしね。
さ、早くしないと日が暮れるよ」
「――はい」
何度も頭を下げながら、私は店を後にした。