表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/114

Episode:04

「ああ、すまないすまない。ちゃんと言わなかったからね。

 気にいったのがあったら、ぜひ持っていってくれないかな? なにしろこの通り、溜まって困ってしまってるんだ」

「え……?」

 あまりにも唐突で、言われたことが良く飲み込めない。


「あの……??」

 この人がまた、笑った。

「だからね、ここから好きなものを持って行きなさい。幾つでもいいよ」

「――えっ?」


 目が点になるとはこのことだ。

 ミルのお父さんが持っている服の数は、決して少なくない。しかも店先に飾ってあったものから考えて、かなり値も張るはずだ。

 それを、あっさりと「持っていきなさい」だなんて……。


「けど、その、高いもの……ですし……」

「遠慮して偉いなぁ。でも本当に、持っていっていいんだよ。処分に困ってるくらいだからね。

――うーん、これなんか似合うかな?」

「あ……」


 お父さんが選んでくれた服に、思わず視線が釘付けになった。

 さっきウィンドウのところで見ていたものに似てるけど、もっとセンスがいい。

「うんうん、思った通りだ。背が高いからこのモデルサイズで、そのまま大丈夫だね」

「モデルサイズ……?」


 不思議に思っていると、ミルのお父さんが説明してくれた。

 なんでも最初に試作品?を作る時は、モデルさんが着ることを考えて、普通より高い身長に合わせて作るらしい。

 そしてここにあるのは、そうやって作ったものの一部なのだそうだ。


「モデルの子に売ったりあげたりってことも、多いんだけどね。ただ私は取っとくのが好きなもんだから、この通りなんだ。

 あ、これも良さそうだねぇ」

 話をしながら、幾つか選び出してくれる。


「ほら、この辺なら好みじゃないかな? サイズも良さそうだしね」

「でも……」

 勝手に話が進んでしまったが、ミルのお父さんが手にしているのは、そのあたりの安物ではない。

 それどころか、普通だったら絶対に買えないようなもので……。

 けどお父さんは、選び出した服を私に持たせた。


「着てあげないと、服も可哀想だしね。

 だから、持っていきなさい」

 こう言われてしまっては、もう断れなかった。


「――すみません」

「いいんだよ。

 さぁ、包んでおいてあげるから、他の買い物でもしておいで」

 優しく外へと促される。


「本当にすみません、ありがとうございます」

 それしか言えない私に、ミルのお父さんは言った。

「いや……このくらいしか出来なくて、申し訳ないよ。

 君たちが大変なのは、分かっているのに」

 それから、少しだけ笑って言った。


「何かあったら、いつでも来て構わないよ。大歓迎だ。服は余って、困っているしね。

 さ、早くしないと日が暮れるよ」

「――はい」

 何度も頭を下げながら、私は店を後にした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ