Episode:37
「ほら、そのバッグも預けよう。要る物だけ出せるか?」
「えっと……」
ホテルに荷物を預け、この子と二人、歩き出す。
ちょっと辺りを見回してから、ルーフェイアがもと来た道へと歩を進めた。
「なんだ、ホテルと駅の間だったのか? それなら先に、行ってみるんだったな」
「すみません……」
謝り出したこの子の頭を、泣かないうちにまた撫でてやる。
「謝らなくていいぞ。行こう」
「あ、はい」
ルーフェイアがほっとした表情になった。
――我ながら、慣れてきたな。
なんとなく泣くタイミングが分かってきたし、どうすれば泣かないかもだいたい分かる。
「ここはまっすぐか?」
「あ、えっと、こっちです」
ルーフェイアの先導で、町を歩いていく。
そうしてたどり着いたところは、町のお医者さんだった。けっこう大きな作りで、人の出入りも多く、賑わっている。
医者が賑わうのはどうかと思うが、ともかくここは繁盛しているようだった。また扉が開いて、患者らしき人と、看護師らしき女性とが出てくる。
と、向いた視線が私たちを捉えた。
「あらまぁ、もしかしなくても、ルーちゃんじゃない」
すぐにこの子のことが、分かったらしい。
「あ、えっと、お久しぶり……で……」
「イマドイマドイマド、出てらっしゃいな。ルーちゃん来たわよー」
こちらの話を、全く聞いていないようだ。
「あぁもう、あの子ったら。せっかく尋ねてきてくれたのに、出てもこないじゃしょうがないでしょうに。
ルーちゃんごめんなさいね、呼んでくるからちょっと待ってて……ってあら、連れの方が居たのね」
どうもこの人、聞こえていないどころか、見えてもいないようだ。
「えーと、ルーちゃん、どちらさま?」
「あ、その、学院の先輩です。旅行に……連れてきて、もらって」
正直連れてきたかどうかには、少々疑問が残るが、旅行なのはたしかだろう。
「あらそうなの、よかったわねぇ」
この女性、ルーフェイアのことを相当可愛がっているようだ。
「ともかくここじゃ何だから、お上がりなさいな。すぐイマドに、お茶用意させるわね」
言って、私たちを中へ招き入れる。
(……イマド、かなりコキ使われてないか?)
(そうみたいです……)
まぁそれでも自分から帰るのだから、それなりに楽しいのだろう。
「イマド、何してるの! 出てらっしゃいったら!」
この女性があがりながら、また声をかけると、少し怒ったような声が返ってきた。
「だーかーら、メシ作ってんだから、手放せねぇっての!」
まるで親子喧嘩だ。
――内容が少々、おかしい気はするが。
ただ、羨ましいとも思った。実の両親ではないものの、こうして言い合える身内が居るイマドは、学院生としては十分恵まれている。
「そんなこと言ったって、ルーちゃんが来たのよ? 早く出てらっしゃいってば」
「え?」
こんどはばたばたと音がして、イマドが出てきた。エプロン姿が妙に似合っている。