表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/114

Episode:36

「えっと、あの、そうじゃなくて……イマドの叔父さん、ここに居て。

 だからその……長い休みだと、ここに来てるんです」

「なるほど」


 身寄りが居るのにシエラの本校に在学というのは、少数派だが、居ないわけではない。それにイマドはたしか、両親は亡くなっているから、その辺が理由なのだろう。


「だとすると、いまここに居るのか?」

「あ、はい、たぶん……」


 ルーフェイアがずいぶんと嬉しそうだったのにも、合点がいく。彼がここに居るのなら、嬉しくないわけがない。

 それに引き換え……。

 タシュアのことを思い出して、また怒りが湧いたが、どうにか押さえ込んだ。私の個人的なことで、ルーフェイアを怖がらせるわけにはいかない。


「家が分かるなら、会っていくか?」

「え、でも……」

 遠慮するこの子の頭を撫でてから、歩き出す。


「荷物だけホテルに預けて、行くだけ行ってみよう」

 大渓谷観光の拠点だから賑わってはいるが、そう大きい町ではない。それに今日は移動だけのつもりだったから、このあと予定は入れていなかった。


 予約したホテルを見つけて、フロントで確認する。また部屋がなかったらどうしようと思ったが、こんどはすんなり通してもらえた。

「アヴァンでルーフェイアが用意してくれた部屋とは、比べ物にならないんだが……」

 なんとなく言いわけめいたことを口にしながら、ドアを開ける。


「あ……♪」

「ん? どうした?」

 やけに嬉しそうな声をあげたルーフェイアに、尋ねる。こんなふつうの部屋が、気に入ったのだろうか?


 だがこの子の答えは、もっと違うことだった。

「ベッド、ひとつなんですね♪」

「――!!」

 しまった、と思う。タシュアと来るつもりだったから、何もかもがそうなっているのだ。


「いや、えっと、これはその、だから……」

 言いつくろえない。

「先輩?」

 ちょっと首をかしげて、不思議そうに訊くルーフェイアに、やっと答える。


「だからその、イヤなら部屋を、ツインに取り直すからっ!」

「え……」

 ルーフェイアが、がっかりした表情になった。


「取り直すんですか……」

 寂しそうに言う姿を見て、アヴァンでのことを思い出す。そういえばこの子は、勝手に私のベッドに入りこんで、しがみついて寝ていた。


「えっと……もしかしてこのほうが、いいのか?」

「はい!」


 とたんにまた、嬉しそうな顔になる。要するに、ひとつのベッドで私といっしょに寝られると思って、喜んでいただけらしい。

 それによく考えてみれば、どこをどうやっても子供のこの子に、「そういうこと」が分かるわけもなかった。


 拍子抜けして、ほっと息を吐きながら言う。

「じゃぁ、今夜はいっしょに寝よう」

「……はい♪」


 こんなことを大喜びするのは、歳から言ってどうかとも思うが、突っ込む気にはならなかった。むしろこんなことで喜ぶのなら、いくらでもそうしてやろうと思う。

 今こそニコニコしているが、ふだんのルーフェイアは、いつもどこか悲しげにしているのだ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ