Episode:33
「このあとお二人とも、どうなさいますか?」
景色をのんびり眺めながら歩いていたところへ、急に訊かれて、先輩と顔を見合わせる。予定なんて決めてなかった。
そんなあたしたちに、支配人さんが遠慮がちに言う。
「こんなことを申し上げるのは、差し出がましいのですが……できましたら今日は、これ以上外出なさらないほうが、よろしいかと」
「あ……」
そのとおりかもしれない。
あのおじさんは、「ちゃんとさせる」と請合ってたけど、相手はふつうの人たちじゃない。それにおじさんがちゃんと話を徹底させたとしても、全員に行きわたるには時間がかかるだろう。
だとしたら、今すぐに外出するのは、危険だ。何より、ホテルに迷惑がかかる。
「先輩、どうしましょう……」
恐る恐る訊くと、先輩が微笑んだ。きっとあたしの考えてることなんて、お見通しなんだろう。
「いいじゃないか、部屋でのんびりしよう。
今日はもう予定はないし、明日は次へ移動だから、荷物もまとめなくてはいけないし」
「え? まだこの先……どこか、行くんですか?」
初耳だ。あたしはてっきり、ここで何日か過ごして、帰るのだと思ってた。
先輩がはっとした顔になる。
「すまない、そういえば何も予定を……言って、なかったな」
「いえあの、あたしも……ぜんぜん、訊かなかくて……」
自分ののんきさに呆れる。予定も知らないまま同行なんて、前線じゃ戦死直行コースだ。学院に行くようになってからあたし、かなりボケてるらしい。
先輩が話し出した。
「その、何と言うか……もともとアヴァンからワサールまで、観光のつもりだったんだ。
でもほら、ルーフェイアにも予定があるだろうし、なんならここで切り上げても……」
歯切れが悪いのは、先輩にしては珍しく強引に、あたしを連れてきたからなんだろう。
だから、答える。
「えっと、その、あたしは予定……だいじょうぶです」
学院へ帰るより、先輩といっしょに居たかった。
「だが、休み中の課題とかが、あるだろう? 終わらないと、減点になるし……」
「課題、ですか? それならもう、提出しました」
先輩が、唖然とした表情になった。
「提出って、まだ夏季休業は、半分も終わってないぞ?」
「え、でも、休みに入る前に、やっちゃいましたし……」
ああいうの、もらったらすぐやって、提出するんじゃないんだろうか? 教官だってやって欲しいから、課題を出すのだろうし。
先輩がなぜか苦笑したあと、あたしの頭をまた撫でた。
「ルーフェイアは、えらいな。
そういうことなら、けっこう長旅になるが……私といっしょに、行くか?」
「はい!」
思いもかけなかった夏休みの長旅に、弾む声であたしは答えた。