Episode:28
「えっと、その……怪我させたら、申し訳ないですし……」
「先に手を出したのは相手なんだぞ。正当防衛だ」
「お前ら――!」
私たちが話しているうちに焦りだしたのか、男が何か喚きだす。半分以上はスラングらしく意味が分からないが、ろくなことではないだろう。
いずれにせよ、長引かせないほうが良さそうだった。
「――ルーフェイア、ともかくこっちへ来るんだ」
「あ、はい」
少女が男の腕に鉄棒の要領でぶら下がり、大きく前へ両足を跳ね上げ、振り下ろす。
サンダルのかかと部分が、勢いよく相手の向うずねに叩き付けられ、男がうめいて腕を緩めた。
隙を逃さずルーフェイアは束縛から抜け出し、更に相手の股間へ、容赦なしの肘打ちを決める。
「!!!」
見事に相手が砂の上に突っ伏し、さっき以上の歓声が周囲からあがった。
――何が面白いんだ?
こちらが絡まれて一応困っているのに、それで拍手喝采という神経が分からない。
「えっと、すみません……大丈夫、ですか?」
ルーフェイアのほうは何を思ったか、倒した相手に謝っていた。
「……謝らなくていい」
喜んでいる野次馬も野次馬だが、この子もこの子だ。絡んできた相手に謝るなど、聞いたこともない。
「す、すみません!」
「あ、いや……いいんだ」
今頃慌てているこの子が、うっかり泣き出さないうちに、少し離れた場所へ連れて行く。
「怪我はないな?」
あの様子であるわけもないのだが、念のために訊ねると、ルーフェイアの表情が和らいだ。
「はい、大丈夫です」
「そうか。
――魚だったな。行こう」
とんだ邪魔が入ったが、軽食を調達する途中だったのだ。
適当な屋台に目星をつけて、歩み寄る。
「おや、さっきのお嬢ちゃんがたじゃないか」
「――?」
こちらが何か言うより早く、屋台の店主が声をかけてきた。
「いやぁ、さっきのはすごかったねぇ」
こちらが絡まれていたというのに、ずいぶんと嬉しそうな顔だ。
「2匹でいいのかな? あ、お金は要らないよ」
「え?」
唐突に言われて困惑する。
「いいもん見せてくれたお礼さ」
「そう、なんですか……」
店主が言うには、彼らはこの辺では悪名高い連中らしい。
「ホント、見てるこっちまで気分がスカっとしたよ。ありがとな」
別に、そういうつもりはなかったのだが……。
「お嬢ちゃんも、ちっちゃいのにすごいねぇ。どこもぶつけなかったかい?」
「え? あ、はい……」
ルーフェイアの方も、どこか不服そうだ。「小さい」と言われたのが、気に入らなかったのかもしれない。
「ほら、持ってきな。熱いから気をつけるんだよ」
「ありがとうございます」
結局2人で1串づつもらって、ほおばった。
「――これは美味しいな」
「はい♪」
ただの炙り焼きなはずだが、名物なだけある。脂がのっていているうえ、潮の香りと味が最高のスパイスになっていた。
ルーフェイアが珍しく、笑顔で食べている。