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Episode:26

◇Sylpha

 昨日の夕方とはうってかわって、浜辺は人があふれていた。

 正直……人が多すぎるくらいだ。


――勝手なものだな。


 人の気配がないと落ち着かないのに、多ければ多いで嫌なのだから、私もずいぶん我侭だと思う。

 ルーフェイアの方は、人の多さをを気にする様子はなかった。繊細な子だと思っていただけに、けっこう意外だ。


 もっともよく考えてみれば、私が強引に連れてきたのに平然としているわけで――泣き虫なだけで、案外芯は強いのかもしれない。

 ただ何か困った様子で、海と私とを交互に見ている。どうやら遠慮がちな性格が災い?して、海に入りたいと言い出せないらしい。


「海に、入るだろう?」

 声をかけて促す。このまま困らせておいても可愛いのだが、さすがに可哀想だ。

「はい!」

 嬉しそうな返事と共に、ルーフェイアが私のあとをついてきた。もし妹がいたら、こんな感じなのかもしれない。

 まだ泳ぎが下手なこの子が、波にさらわれないよう手を引いて、ゆっくりと海へ入る。


「泳いでみるか?」

「あ、はい……」

 ぱしゃぱしゃと、ルーフェイアが泳ぎだす。


「――上手いじゃないか」

「え? えっと、そう……ですか?」

 この子が顔を上げて、きょとんとした表情で問い返してきた。


「ああ」

「……♪」

 今までに見たことがないほど、にこにことした表情だ。


――これが本来の、この子なのだろうな。


 今まで見ていたルーフェイアは、いつもどこか寂しそうだった。もしかすると学院へ来る前に、誰か亡くしたのかもしれない。

 当たり前といえば当たり前だが、学院にはそういう子が多かった。そしてそういう子達は皆、ああいう寂しそうな表情を見せる。

 今だけでも、それを忘れて楽しんでくれれば、と思った。


「イマドは教えるの、上手いんだな」

「はい」

 自分のことのように喜ぶ。


 何故かは分からないが自称保護者のイマドに、ルーフェイアは特に懐いていた。一緒でないほうが珍しいくらいだ。

――間違っても積極的とは言えない性格のこの子が、男子と仲がいいのは不思議なのだが。


「そうしたら、今日はもう少し……いろいろ、やってみないか?」

「あ、はい♪」

 喜ぶこの子に、一つ一つ教えていく。


 以前にも感じたことがあるが、ルーフェイアは飲み込みは早かった。自分の身体を扱うのが上手いというか、コツを掴むのが上手と言うか……ともかく、上達が早い。

 相当鍛えこんでいるらしく、息が上がる気配もなかった。


 ここへ来る前にどこで何をしていたかは、詳しくは知らない。だが噂どおり、タシュアと同じような経歴なのだろう。

 ともかくしばらく教えて、ある程度メドがついたところで声をかける。


「一旦、上がらないか? おなかも空いただろう?」

 こくりとうなずいて、この子がついてきた。

 荷物を置いていた日よけ――ホテル側が用意してくれた――の陰で、手早く身体を拭いてやり、砂を払った足にサンダルを履かせる。





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