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Episode:21

 遅めの時間を指定して、その間に2人で順番にシャワーを浴び、ルーフェイアの髪を乾かして梳いてやる。

 柔らかく流れる金の髪。


――結んでリボンでも付けたら、可愛いだろうに。


 だがこの子はそういうことを気にしないから、いつも長く流したままだ。

 このあと出かけたら、どこか途中の店で、髪飾りを買ってやろうと決める。だいいち海へ出る――ビーチで有名なアヴァンまで来て泳がないのもつまらない――のに、結わなかったら大変だ。

 そこまで考えて気が付いた。


「その、ルーフェイア、水着は……持って来て……」

 言いかけながら、言葉が途中で尻つぼみになる。

 やっと幾らか泳げるようになったばかりの、この子のことだ。持って来ているわけがない。

 そもそも私は、海で泳ぐなど一言も言わずに、強引に連れ出してきたわけで……。


「泳ぐん……ですか?」

 案の定、きょとんとした表情でルーフェイアが訊いてきた。

「あ、いやあの、イヤなら別に、構わないんだ」

「え……」

 今度は思ったのとは違う反応が返ってくる。


「……泳ぎたかったか?」

「あの、えっと……ごめんなさい……」

 しかもなぜか、謝り始めてしまった。

 慌ててなだめる。この子のいつものパターンからすると、ここで放っておくと泣き出すのだ。


――タシュアはわざと追い詰めて、泣かせるが。

 タシュアの事を思い出した瞬間また腹が立ったが、押さえ込んだ。今はルーフェイアの事が先だ。


「だからその、泳ぎたくなければ、それでいいんだ。他にも見るところは、幾らでもあるわけだから……」

 だがなだめても、ルーフェイアは謝るのをやめなかった。どうも当人自身が、混乱しているようだ。


 私も口で言うのが面倒になってくる。もともと口下手なのだ。気の利いたことなど、言えるわけもない。

――あぁ、そうか。

 言葉がダメなら別の手段を使えばいいのだと、やっと私は気付いた。


「ルーフェイア」

「――?」

 名前を呼ばれて、この子が一瞬止まった隙に、抱き寄せる。

 最初は驚いた様子だったが、元が甘えたがりのルーフェイアだ。すぐにぴたりと身体を寄せた。


「謝らなくていい。分かるな?」

「……はい」

 うなずいて大人しくなったこの子に、今度は順を追って話していく。


「どうする? 海へ行くか?」

「はい」

 昨日もそうだったが、はっきりとした返事が返って来た。本当に海自体は好きなようだ。

 ともかく、これさえ分かれば後は早い。


「ならルーフェイア、午前中は観光でもして、午後は暑いから海でも行かないか?

 水着は途中で買えばいいだろうし」

「――はい♪」

 ルーフェイアが嬉しそうな笑顔になる。


――こういう表情も、するんだな。


 もともと綺麗な子だが、笑顔を見せると格別だ。

 逆に言えばそれだけ、笑顔を見せることが少ない子だとも言える。だったら尚更、この旅行で喜ばせてやりたかった。


 今日も後で泳ぎを教えて、喜ばせてやろう。

 そんなことを考えているところへちょうど、朝食の用意が出来たと知らせが来て、2人で並びの食堂へ向かった。





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