Episode:20
「―――!!」
翌朝ふと目を覚ました私は、石化しかかった。
「る、ルーフェイア?!」
何をどう間違ったのか、ルーフェイアが私の胸に顔をうずめて眠っている。
確か夕べは、隣の寝室に寝ていたはずだ。いやそれ以前に、2人で同じベッドという時点で問題がありそうな……。
と、この子がわずかに身じろぎした。
「――ルーフェイア?」
起きたのかと、おそるおそる声をかける。
「ん……」
少し動いたが、起きている気配はなかった。むしろ、安心しきって眠っている感じだ。
可愛くなって、そっと頭をなでる。
「……母さ……ん……」
これで納得した。
恐らく寝ぼけて、私のベッドへ入ってきたのだろう。ルーフェイアはこの部屋に泊まったこともあるようだから、その時と勘違いしたのかもしれない。
眠り込んでいるこの子を見る。
優しい金髪に、華奢な身体つき。確か今年12歳のはずだが、見かけはもう少し幼くて、8歳か9歳程度の感じだった。
性格もおとなしくて甘えん坊で、大人びたところがないから、やはり少し幼く感じる。
――8歳、か。
その年齢に、ずきりと胸の奥が痛んだ。8歳は、私が学院へ来た年齢だ。
思い出す。
あの時思っていたのは、これでもう追い出されずに済むということと、やはり頼れる人は誰もいないのだという寂しさと……。
そのとき不意に、なぜこんなに強引にルーフェイアを連れてきてしまったのか、私は理解した。
――ひとりが、嫌だったのだと。
我ながら情けないと思うのだが、今でも私は独りは苦手だ。誰かと話すことはなくても、人の気配がないと、どうにも落ち着かないほどだった。
だからつい、無意識に連れを作ってしまったのだろう。
何も言わずついてきてくれたこの子の頭を、もう一度そっとなでる。
もそもそとルーフェイアが動いた。うっすらと瞳を開ける。
「あ、すまない。起こしてしまったな」
「……?」
完全には目が覚めていないらしく、私を見ながらぼーっとしてしている。
その可愛さに、抱き寄せてまた頭をなでてやった。
「……♪」
また私にすり寄ってくる。前から感じてはいたが、やはり相当の甘えん坊のようだ。
ただ、嫌だとは思わなかった。兄弟のいない私にとっては、むしろ妹のようで心地いい。
しばらく抱いてやってから、改めて声をかける。
「ルーフェイア、起きたのなら、着替えて朝食にしないか?」
「………」
うなずきながらも、まだ私にしがみついているのを見て、可笑しくなった。今まで誰かに甘えずにいた分、まとめて甘えているのかもしれない。
「ほら、起きよう。ここで寝ていても、つまらないぞ?」
うながして、ベッドから出る。
少し不服そうだった――この子が不満を示すのは珍しい――が、ルーフェイアもベッドから起きだしてきた。
「朝食は、どうする?」
訊くだけムダかもしれないと思いながら、この子に尋ねてみる。
「えっと……」
思ったとおり、ムダだったようだ。
もっともこの子も、まだ12歳。学院へ来た時は10歳だったというから、そこまで分からなくても当然だろう。
少し考えて、ルームサービスを頼むことにした。もう少し、この子をゆっくりさせてやりたい。