Episode:02
「まぁ、いろいろあるのでしょう。
どちらにせよ、私たちには関係ないことです」
言って彼は視線を本に戻した。
――確かに、そうだな。
ここの生徒は、たいていワケありだ。それを本人のいないところで追求するなど、もってのほかだろう。
タシュアはよほど本が面白いのだろう、すでに夢中だった。
この難解な本のどこが面白いのか、まったく分からないが――少なくとも彼は嬉しそうだ。
邪魔するのも悪い気がして、私はさっきの質問を諦めた。
それに実を言えば、タシュアの予定が来週空いているのは知っている。確認したかっただけだ。
「タシュア、そうしたら私は……ちょっと出かけてくる」
「そうですか、行ってらっしゃい」
私がそう言っても、ちらっと顔を上げただけだ。
ただ私も、今はこの方が良かった。
タシュアに気づかれたくないことがあるのだが、なにしろ彼は勘が鋭い。だがこうやって他のことに集中していてくれれば、それだけ気づかれずにすむだろう。
そのまま私は、そっと図書館を後にした。船着場でちょうど来ていた連絡船に乗り、ケンディクの町へ向かう。
連絡船は、いつもの休日ほどには混んでいなかった。ちょうど夏期休暇中で、みんな適当に出かけているからだろう。
――何を、買おうか。
持って来たリストを見ながら、まだ迷う。もっとも使えるお金は限られているから、結局は値段と相談だ。
ひとりでケンディクの町まで来たことは、ほとんどなかった。昔はたいてい先輩と一緒だったし、今はタシュアと来ることが多い。
なにより独りは、嫌いだ。
でも今回ばかりは、そんなことは言っていられなかった。ここでタシュアを誘ったりしたら、きっと気づかれてしまう。
なにより、あと今日一日だけなのだから……。
そうこう考えているうちに、ついたらしい。
止まった連絡船から、急いで降りる。買うものの中には細かいものも多いから、急がないと夜になりそうだった。
「えぇと……」
いちばん買いたいのは、服だ。
孤児が多い学院では、そういう子供たちにはきちんと、お小遣いをくれる。だがその額はそれほど多くはなくて、文房具などのこまごました物を買うと、ほとんど残らなかった。
当然服などそう簡単には買えなくて、みんな制服や先輩からもらったもので、間に合わせている。
だから……。
上級傭兵になってから貰うようになった給料は、大部分は立てた予定のために使ってしまったけれど、まだ少しは残っている。
その中からやりくりしてでも、新しい服が欲しかった。
メインストリートを、ゆっくりと歩いていく。
――あ♪
ウィンドウに、素敵な服が飾られているのに気が付いて、立ち止まった。
水色のタンクトップに、薄紫の半袖ブラウス、それに白のスラックス。どれもシンプルなのに、とてもセンスがいい。
だが付けられている値段は、全く手が出なかった。もっと安いところへ行って、似たようなものを探すしかない。
「おや、うちに何か用かい?」
「え……?」
ため息をついて行こうとしたところへ、後ろから声をかけられた。