Episode:19
「ルーフェイア、その……良かったら、服を少し買わないか?」
「え、でも……」
視線を落として、ルーフェイアが困ったような顔をする。
だがこんな格好でこの子がいるのは、元はと言えば私の責任だ。幸い自分の服代や、今日の宿泊代が浮いたおかげでお金もあるし、何かしてやりたかった。
「それだけだと、困るだろう? お金は私が出す」
「あの、でも……自分で買うつもり、だったので……」
はっとする。
この子は最初から、持ち物が足りないのは承知していたのだ。それでも私の様子から、最低限のものだけ持って飛び出したのだろう。
「――本当に、すまなかった。無理に連れ出して」
普通に考えれば、素直についてくること自体あり得ない。
それを黙ってついてきてくれただけでも、十分だった。この子が来てくれたおかげで、私もずいぶん気がまぎれている。
いなかったらたぶん……旅行に来てはみたものの、かえって嫌な思いをしていただろう。
タシュアを思い出してまた腹がたったが、それは無視した。私が怒っていては、ルーフェイアが可哀想だ。
「だから、お詫……!」
言いかけて慌てる。いつの間にかルーフェイアが下を向いて、泣き出しそうになっていた。
「すみません……あたし……」
一緒に学院を出てから泣くことがなかったので忘れていたが、そういえばこの子の泣き虫は相当だ。
「いや、ルーフェイアは悪くないだろう?」
「でも、でも……ついてきて……考えないで……」
どうも、私が気にして謝ったのが悪かったらしい。ともかく泣き止ませようと、私は必死に慰めた。
「――ルーフェイア、行くのは、嫌か?」
「い、いえ! あの、行きたいです」
この子にしては珍しく、はっきりと意思を口にする。
私は微笑んだ。
「それなら、問題ないだろう?」
「あ、はい……」
自分でも何を言っているかよく分からないが、幸いルーフェイアは納得した。
「ほら、涙を拭いて。行こう」
「――はい」
また何かの拍子に泣き出して迷子にならないよう、この子の手を引いて歩き出す。
ふと時計を見ると、意外なくらい時間が過ぎていた。
――これじゃ、服を買うのは無理だな。
もっとも今晩出かける予定はないし、明日も日のあるうちは暑いだろう。だとすれば、今でなくても間に合う。
「ルーフェイア、その、自分で言っておいてなんだが……もう遅いから、服は明日でいいか?」
「え? あ、はい」
本人は買ってもらうつもりはなさそうで、半分上の空の返事だ。
もちろん、それを責めるつもりはない。
「じゃぁ明日だ。
さ、戻って夕食にしよう」
「はい!」
強引に締めくくった話に、だがルーフェイアは嬉しそうに返事をした。