Episode:18
「羽織るものを、持って行ったほうが……」
「大丈夫です」
当人はそう言い張るが、これで外へ連れ出したら、風邪をひきかねない。
「ダメだ。ほら、バッグを貸してくれ」
言うと、素直にこの子が荷物を差し出した。
が、中を見て唖然とする。殆ど何も入っていなかった。
「これだけ……か?」
「はい」
それから思い出す。連れてくる時、確か強引に急がせたわけで……。
きっとこの子のことだ。律儀に大慌てで、最低限の物だけ持って飛び出したのだろう。
「――すまなかった。とりあえず、これを羽織るといい」
薄手のカーディガンを出してやる。さすがに肩や袖は余るが、羽織るだけなら十分だ。
「……♪」
「行こう」
学院では見たことがないほど、嬉しそうにしているルーフェイアを連れて、私はホテルを出た。
夕日に染まる町が広がる。
――それにしても。
いったいどこへ連れて行ったら、この子が喜ぶのだろうか。
少し考えて、訊いてみる。
「どこか行きたいところは、あるか?」
「えっと……」
案の定、そういう場所はないようだ。かといって、このまま立っているわけにもいかない。
また少し考えて、私は言った。
「海は……見るか?」
「あ、はい!」
思いのほか、はっきりした答えが返ってくる。どうやら海を見るのが好きなようだ。
「行こう」
ルーフェイアを連れて、目の前の海岸へと出る。
陽が、沈もうとしていた。
緩やかに燃える太陽。
空に流れる、澄んだ薄紅色の雲。
陽を浴びて、金色にまたたく海。
「きれい……」
「そうだな」
2人で魅入る。
橙色から朱色へ、朱色から金赤へ、そして緋、紅、赤、茜……。
最後に夕焼けを残して、陽は海の彼方へ沈んだ。
「……行くか」
「はい」
暗くなり始めた夕暮れの町に、あちこちの窓や街灯の明かりが浮かび上った。だんだん気温が下がってくる。
心配になって、薄着のルーフェイアに声をかけた。
「寒くないか?」
「だいじょぶです」
確かに見た限り寒そうなところはないが、それでも心配だった。夜風にあたって、風邪でもひいたら可哀想だ。