Episode:17
「先輩?」
その声で、我に返った。
慌てて告げる。
「あの、申し訳ないんですが……とてもこんな部屋に、泊まる予算は……」
「そのことでしたら、ご心配には及びません」
ホテルの人が、穏やかに笑いながら答えた。
それからちょっと悪戯っぽい表情で、付け足す。
「何よりグレイス様や、そのご学友様からお代を頂いたなどと知れたら、私どもの首が飛びます」
どうやらこのホテルは、ルーフェイアの家が所有しているとか、そういうことらしかった。
「どうぞ、お掛け下さい」
「あ、はい」
気圧されながらも、私もソファにかけた。汚さないかと、つい気を使う。
ホテルの人はもう一通りいろいろ説明してくれて、それから私たちに訊いた。
「夕食はいかがなさいますか?」
問われて、困ったようにルーフェイアがこちらを見る。例によって、自分では決められないのだろう。
だが私も勝手が分からない。結局訊いてみることにした。
「その、ここで……食べられますか?」
「もちろんでございます」
外へ行くのはもちろん、ホテル内のレストランを利用してもいいし、この部屋でのディナーも可能だと、この人が答えた。
少し考える。
外での食事にも興味があるが、アヴァンには2泊する予定だし、今日はルーフェイアも疲れているだろう。
「今日はここで……食べないか?」
「あ、はい♪」
この子も、異存はないようだ。
「では後ほど、夕食をご用意致します。
他何かございましたら、いつでもお申し付け下さい」
「あ、えっと、申し訳ないんだが……」
丁寧に一礼して出て行こうとするホテルマンに、慌てて訊ねる。
「何でございましょう?」
「その……少し、出かけたいので……」
せっかく着いたのだ。いくら明日観光に出かけると言っても、夕食までホテルにこもりっきりでは、アヴァンまで来た意味がない。
「では、お戻りになられましたら夕食に致します。ごゆっくり、このアヴァンをお楽しみ下さい。
行き先等でお困りのことがありましたら、どうぞ何なりと呼んでお尋ね下さい」
ホテルの人が再び一礼して出て行き、2人だけになって、なんだかほっとする。
「どこ、行くんですか?」
興味津々と言う表情で、この子が訊いてきた。私にはいくらか慣れているせいか、意外とよく話す。
それが、可愛かった。兄弟がいないからよく分からないが、妹がいたらこんな感じなのかもしれない。
「その……せっかくだから、適当に歩かないか?」
「はい♪」
飲んでいたコップを空にしてから、ルーフェイアが立ち上がった。私もバッグを手に取る。
それから、ふと気づいた。
「ルーフェイア、それだと寒くないか?」
今は夏だが、ケンディクより北に位置するアヴァンは、夜は少し冷える。それなのにこの子は、薄手のTシャツに短いスパッツという、ずいぶん涼しそうな格好だった。