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Episode:15

◇Sylpha

 旅は順調で3日後の午後、私たちは海を渡ってアヴァンに着いた。

 隣でルーフェイアが、大人しいながらはしゃいでいる。


――悪いことをしたな。


 まさに、無理やり連れてきたも同然だ。よほど見境を無くしていたらしい。

 ただ幸い本人は、気にしていないようだった。むしろ喜んでいる。

「先輩、どこへ行くんですか?」

 普段は顔も上げず、なかなか喋らない子だが、今日はにこにこと私を見て話しかけていた。


「先にホテルへ行くか? 荷物が邪魔だろう」

 地図を開きながら答える。アヴァンは何度か来たことはあるが、地理に精通していると言うほどではない。


「どこのホテルですか?」

「オレオル・ホテルだから……」

「オレオルビーチのところの……ですか?」

 さらりとこの子が答えた。意外にもアヴァンには詳しいようだ。


「ああ、そうだ」

「……♪」

 どうやら知っているホテル――この年で知っていること自体不思議だが――だったらしく、嬉しそうにとことこと歩き出す。

 ホテルまでは波止場から、10分ちょっとのところだった。アヴァンでは大きな方に入るだけあって、広くて洒落たロビーになっている。軽食も頼めるようだ。


「その辺りに、座って待っててくれ。チェックインしてくる」

「はい」

 華奢なこの子をソファに座らせ、フロントへ向かう。

 きちんとした制服に身を包んだ男性が、私を一瞥したあと、にこやかな営業スマイルを見せた。


「今日予約した者なんだが……」

「お名前をお伺いしてよろしいでしょうか?」

 言われるままに自分の名を告げると、フロントの人の表情が少し変わった。なにやら端末を操作した後、奥へ引っ込んでしまい、しばらく待たされる。


「……先輩?」

 様子を察したらしいルーフェイアが、隣へ来た。

「すまない、ちょっと待たされて――」

 そこへ、フロントの人が戻ってきた。


「大変申し訳ありません、オーバーブックのためお部屋がご用意できません」

「え?」

 何を言われたのか分からず、考え込む。

 そういえば確か、ホテルはキャンセルを見込んで多く予約を取るために部屋が足りなくなることを、そう言った気がするが……。


「――部屋が、ないのか?」

「大変申し訳ございません」

 冗談ではなかった。こっちはきちんと予約も取っているし、そもそも泊まるところがなくては困る。


 こんな時、タシュアなら……。

 そこまで考えて、やめた。思い出すと腹がたってくる。


「部屋を振り替えて、いただけないんですか?」

 意外にも、隣にいたルーフェイアが的確な反応を返した。


「ぜんぶ埋まってるってことは、ないと思うんですけど……」

「お待ちいただければ、他のホテルを手配致しますが」

 どうあっても、ここには泊まれないようだった。


 かといってこれから探すのではいつになるか分からないし、そもそもこのシーズンで、きちんとしたホテルに空きがあるかどうか。

 私ひとりならまだそれでもいいが、ルーフェイアまで巻き込むわけには行かない。

 どうしたものかと悩んでいると、隣でこの子が、不意に毅然とした表情になった。


「――分かりました」

 言ってなぜか、自分のウェストポーチをあさり始める。





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