Episode:12
「やれやれ、こりゃすっかりだね。
しゃぁない、明日でも景気付けにさ、どっか行くかい?」
「あ、それいいな。しばらくケンディク行ってないし」
シーモアの提案に、ナティエスが賛成する。
「行ってなんか、美味しいもの食べよ♪
――っていけない、あたしたち朝ご飯食べるんだっけ」
「やば、急がないと食いっぱぐれちまうよ」
「あ、行ってらっしゃい」
急いで食堂のほうへ駆け出した2人を見送ってから、あたしは周囲を見回した。
――シルファ先輩、寮かな?
でもこの時間だと、いるとは思えなかった。訓練だったり補習だったりで、夏休みでも昼間は、みんなたいてい教室や訓練島だ。
廊下の端で少し考えて、まずいちばん近い図書館へ、行くことにする。
シルファ先輩はそれほどでもないけど、タシュア先輩はとても本が好きだ。だからたいてい図書館にいて、そこにシルファ先輩も一緒にいることが多い。
それで見つからなかったら、寮へ戻ってみようと思った。
その時。
「え、あれ……?」
思わずつぶやく。向こうから歩いてくるの、シルファ先輩みたいだ。
だけどいつもおだやかなのに、なんか今日はとても急いでて――途中で教官に話しかけられても、立ち止まりもしなかった。
――どうしちゃったんだろう?
きっと、何かあったんだろうけど……。
それからいくらも経たないうちに、先輩があたしの傍へ来た。
「――あの、先輩?」
なんだか凄い勢いで、やっとそれだけ声をかける。
そのままだったら行き過ぎそうだった先輩が、あたしに気がついて立ち止まってくれた。
でも振り向いたその表情に、なんだか鬼気迫るものがる。
「どう、なさったんですか……?」
「ルーフェイア、予定は空いているな!」
鋭く言われて、その場にあたしは立ちすくんだ。
「え、あ、は、はい……」
「だったら旅行へ行くぞ!」
「え……?!」
あんまりにも唐突で、どうしていいか分からなくなる。
けど今日のシルファ先輩は、信じられないくらい強引だった。
「旅行へ行くんだ!」
「は、はいっ!!」
もうびっくりして、思わず返事をする。
「ほら、早くっ!」
「あ、あの、そしたらあの、荷物……」
うろたえながらどうにかそう言うと、ようやく先輩がトーンを下げてくれた。
「ん? ――あ、そうか」
先輩の表情が少しおちついて、ほっとする。
でも、それだけだった。
「正門のところにいるから、早く荷物を持ってくるといい」
有無を言わさない口調。
「あのっ、すぐ、戻りますから!」
これ以上はないっていうくらいあたしは慌てて、寮へと身を翻した。
――シルファ先輩、いったいどうしちゃったんだろう?
何かあったっていうことだけは、分かるんだけど……。