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空(うつほ)なる真実 ルーフェイア・シリーズ11  作者: こっこ
Chapter:10 三度、学院にて
114/114

Episode:114

 少し考えて、いちばん先に図書館を覗く。だがタシュアの姿はなかった。

 次いで食堂へ行ってみたが、ここにも姿はない。もうお昼は済ませてしまったのだろう。

 自分もここで食べようかと思ったが、珍しくサンドイッチなどが残っているのに気づいて、そちらと飲み物とを持つ。


 どちらにも居ない上、武器が持ち出されていることを考え合わせると、たぶん訓練だ。だったら森の中だから、そこで食べてもいい。

 建物から離れて、いつもタシュアが居る場所へと向かう。

 丘の影、ほとんど人の来ないそこには果たして、タシュアの姿があった。


 ――非常に珍しい姿だったが。


 よほど眠かったのか、木に寄りかかったまま眠っている。

 起こさないようにとそっと近づいたが、気配に気づいたのだろう。ふっとタシュアが目を開けた。

 綺麗な紅玉色の瞳。それが私の姿を捉える。


「すまない。寝ていたのか?」

「いえ」

 そんなわけはないのだが、それがタシュアの答えだった。

 そして彼が、言う。


「おかえりなさい、シルファ」

 相変わらずの、ちょっと街まで行っていたのを迎えたような、気軽な言い方。

「ああ、ただいま。ついさっき戻った」


 単に言葉が出たのは、そこまでだ。

 タシュアが私をどう見るかが、気になる。

 何しろこんな、今までに着たことがないような格好だ。気づかないワケがなく、だからきっと何か言うはずで……それなのに何も言わない。

 やっぱり私には、似合わないのだろうか?


「タシュア……?」

 なんだか心配になって声を掛けてみて、それ以上何も言えなくなった。

 またタシュアが寝ている。


「何も寝ることはないだろう……」

 さすがにちょっと毒づいてみたが、それでも彼は起きなかった。熟睡しているらしい。

 腹いせにタシュアのタオルを敷物代わりにして、隣へ腰を下ろす。

 彼の頭を私の膝に乗せてみたが、それでも起きなかった。


「私が立ち直れなかったら、どうするつもりだったんだ?」

 言って頭を軽く小突いてみる。だがタシュアは僅かに、うるさそうに顔をしかめただけだ。

「――まったく」

 ただ、タシュアのことだ。もし仮にそうなっても、辛さも傷も胸の奥にしまい込んで、何事もなかったの様に生きていくのだろう。


 銀色の髪をそっと撫でると、柔らかい感触が手のひらに伝わった。

 無防備な寝顔。

 戦場育ちの彼は眠っていても常に警戒状態で、僅かの気配で即座に目を覚ます。逆に言うなら、動かされても起きないほど、私を信頼しているのだ。


 これでいい、と思った。

 何も信じない、信じることの出来ないタシュアが、唯一安心していられる場所なのだから……。


 ――起きたら、なんと言おう?

 またそんなことを考える。

 きっかけをくれたことを、ありがとうと言えばいいのだろうか? それとももうちょっと言い方があるだろうと、怒ればいいのだろうか。


 タシュアは感謝してほしかったわけではない。だから、感謝を述べたところで、聞き流すだけだろう。

 かといって、怒るというのも少し違う気がするわけで……。


 また軽く、小突いてみる。

「そもそも……」

 口よりも先に手が出る、こんな私を受け止めてくれる相手なんて、タシュア以外にいない。

 そのことを、本人は分かっているのだろうか?


 そしてこうも思う。

 もしかしたら、私に他の道を選んで欲しかったのだろう、と。

 神経をすり減らして命のやり取りなんてする必要のない、平穏な道。戦場しかないと言った彼とは、異なる道。


 魅力がないと言えば、嘘になる。

 だがそれでも、私はタシュアのそばに居たい。彼と一緒に歩みたい。

 理由はとても単純で――好きだから、それだけだ。


 加えてもうひとつ、見つけたことがある。

 タシュアに戦場以外の道を、見つけてもらうこと。

 出来るかどうか分からない。少なくとも容易な道ではないだろう。

 ――それでも。

 将来と問われて出した、これが私の答えだ。




◆お知らせ◆

いまだ新インフル襲来中です☆

ご了承ください。



◇あとがき◇

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。

この話はこれで完結し、明日より次作へ移ります。よかったらまたお付き合いください



◇お礼いっぱい◇

夏頃より何かと修羅場で、まとめてになってしまって本当にすみません。


REGRETTERさん

こちらこそ感想が遅れて、本当に申し訳ありません。

新作がなんだか、いろいろと修羅場でした(苦笑)


テロ組織に関しては、ほんの10年ちょっと前までは、いわゆる「赤」が主流だったんですよね。

それ以外にも、大国が裏から糸を引いていることもあったりで、なんとも言えないです。

なにしろあのタリバン、鍛え上げたのはアメリカだったりしますし。

巨鳥に関しては、「だからこそ」次へ繋がる話もあったりするので……。


まだまだ長い話が続きますが、これからもよろしくお願いします。



さーさん

感想、ありがとうございます♪

この話も「どうにか」という感じですが、落さずに済みました。

良ければ新作も、よろしくお願いしますね



ユウさん

読んでくださって、ありがとうございます♪

タシュアの正論は、間違ってはいないけど……ここでそれを言うか!みたいなものが多いです(苦笑)

今作でちらっと出てきましたが、かなりムリをしている部分があるので、その影響も大きいですね。

彼も少しづつ変わると思います(たぶん)。

新作がまた始まりますが、良かったらお付き合いください。



ふらくたるさん

何度も応援メッセージ、ありがとうございます♪

お尋ねのサリーア、どうだったでしょうか? 驚かれたかもしれませんね。

ようやっと、という感じですが無事この話も最後へ漕ぎ着けました。

明日からは新作ですが、またよろしくお願いします。

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