Episode:112
「いろいろねぇ。じゃぁその、シルファにしちゃ珍しい服も、『いろいろ』のうち?」
「あ、いや、これは……」
なんと言ったものか、答えに困る。
「”パンセレーノン”の服よね? あなたにしては珍しいわ。ましてやミニのタイトなんてね」
シェリーに突っ込まれて、さらに言葉に詰まる。
「普段、あんなにスカートを嫌がって、あなたズボンばかりじゃない。どういう風の吹き回し?」
「その、これはだから、依頼人から……」
何とか言いつくろう。
「ふぅん……」
二人の視線と言葉が重なった。半信半疑、というところなのだろう。
「で、タシュアにはもう見せたの?」
「見せると言うか、挑発じゃない?」
ディオンヌもシェリーも、容赦がない。
これ以上突っ込まれると、ややこしいことになりそうで、必死に話題を変える。
「と、ところでヴィルは?」
ヴィルこと、ヴィルシア。シェリーと旧知の仲で、だいたいこの2人は一緒だ。なのに今日は姿がない。
ディオンヌとシェリーが、顔を見合わせて苦笑した。
「ヴィルなら休み前の試験が、ね」
「追試はちゃんと……受けてなかったか?」
ヴィルはディオンヌの言うとおり、あまり学科がよくない。というか、頭を使うこと全般が苦手な肉弾派だ。
だがそれでも、いつも追試で、ギリギリクリアしている。
「それがね、今回は本人曰く、難関だったらしくて。それで教官が仕方なく、追々試までしてくれたのだけど」
「――だけど?」
シェリーの言い方にそれでも落ちたのかと思ったが、話はさらに予想外だった。
「ヴィルったら、追々試あるの忘れて、受けずに実家に帰っちゃってねぇ」
「………」
ディオンヌが続けた内容に、言葉が出てこない。
「で、休み明けに代わりに大量に課題を出されて、今必死に片付けてるってわけ」
なんともヴィルらしい話だ。
「彼女のことだから、きっと助けを求めてくるわね。断言するわ」
「賭けが成り立たないくらい、それ確実でしょ」
二人が好き勝手なことを言っている。
「彼女については、そういうわけ。それより言い忘れてたことを言わないとね。
――おかえりなさい、シルファ」
そしてディオンヌが、私の背中を軽く叩く。
「あたしも忘れてた、おかえり、シルファ。それと遅れたけど、誕生日おめでとう」
「わたくしからも祝わせて貰うわ。おめでとう、シルファ」
ディオンヌに続いてシェリーが言う。
「……ありがとう」
三人で視線を合わせてから、みんなで微笑んだ。
――素直に嬉しい。
私のことを知ってくれる人が、タシュア以外にもちゃんといる。彼はこういうことにも、気づいて欲しかったのだろう。
「お祝いやら何かは、また後日かしらね。まだ部屋にも戻ってないのでしょう?」
「あ、ごめん、帰る途中で呼び止めちゃったんだね。シルファ、早く荷物置いてきたら?」
「ああ、そうする」
言って歩き出そうとしたところで、思い出したかのように二人が、背中に声をかけてきた。