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空(うつほ)なる真実 ルーフェイア・シリーズ11  作者: こっこ
Chapter:10 三度、学院にて
110/114

Episode:110

◇Sylpha


 青い海の上を、船が滑っていく。

 学院への連絡船の中は、私たちだけだった。今日は学院も休日のはずだが、まだ午前中なので、本土から島へ戻る生徒がいないのだろう。

 緑の島が近づいてくる。


 ――何日ぶりだろう?


 旅行とはいえ思わず飛び出した状態で、しかもその後、思わぬことで帰るのが遅れて……数えてみれば一ヶ月近い。

 こんなに学院を空けたのは初めてなので、部屋の中が心配だ。もともと旅行に行くつもりで居たから、部屋の中は片付けておいたが、それでも気になる。


 船が小さな岬を回りこんで、船着場のある湾の奥へと進む。

 軽い衝撃が伝わってきて、動力音が消えた。接岸したのだろう。

「何回来ても、ここいいわねー」

 なぜかここまでついてきてしまった、ルーフェイアのお母さんが、立ち上がって言う。


「そんなに、来てるんですか?」

「ここんとこ多かったわね。半月の間に、今日含めて3回来たかしら?」

 確かに多い。


 3回目が今だとすると、2回目は数日前、ルーフェイアとタシュアが学院へ帰ったときだろう。

 1回目はよく分からないが……可能性があるとすれば、タシュアが来た時か。

 ずいぶんいろいろと気を遣って、裏で動いてくれたらしい。


「荷物、持つわよ?」

「いえ、大丈夫です」

 このくらいのことはしないと、鈍った身体が元に戻らない。


 両側が崖になった坂道を、二人で並んで登っていく。これからケンディクへでも行こうというのだろう、何組もの学院生とすれ違った。

 だがその生徒たちが……全員が全員、私たちを見つめてくる。


「あの、みんなこっち見てて……やっぱりこの格好、おかしいんじゃ……」

「そんなことないわよー、似合っててカッコいいわよ? だから見られてるんじゃない?」

 あっさりとそんなことを言われた。


 初めて履いた丈の短いタイトスカートは、なんだか脚が変な感じだ。上はジャケットを羽織っているからまだマシだが、キャミソールは胸元が開いていて、やはりこちらも妙な感じだった。

 まぁ夏だから、涼しいといえば涼しいのだが……。


 そんなことを考えながら歩いていて、気づく。すれ違う生徒の視線は私より、隣のお母さんに注がれていた。

 ――分かる気はするが。


 人目を引く黄金の髪に、深い碧の瞳。背も私より高いし、胸も腰もある。

 加えて着ているのが、はっとするような青のタイトなワンピースに、私と揃いの白のジャケットだ。これで目立たないほうがおかしい。

 けれどお母さんは、平然としたものだった。


「見られてて……気にならないんですか?」

「こんなの普通でしょ。取り囲まれたら、そりゃ考えるけど」

 どうも基準が違うらしい。


 これほど目立つ人が、ちゃんと傭兵家業をこなせるんだろうか……などと、要らぬことを考えてしまう。

 そうしているうちに、玄関に着いた。


「さてっと。あたしは学院長のところへ行くから、ここまでだわね」

 お母さんに言われて、慌てて居住まいを正す。

「その、お世話になりました」

「いいのいいの、気にしないで。娘が出来たみたいで、こっちも楽しかったしね」


 たぶん、本音だろう。

 あれほどの財力がある企業を背負い、一方で傭兵家業までこなして、この人が今までに相当黒い裏側を見てきているはずだ。

 それなのに、これほどまでに強く優しい。

 私ではとてもこうはなれないだろうが……それでもこういう風になれたら、と思う。





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