Episode:108
◇Tasha side
学院に戻ってから、すでに10日近く。タシュアは連日、旅先から集めてきた資料を元に、調査に没頭する日々だった。
とはいえ授業その他は通常通りあるし、自主訓練も手を抜くわけには行かない。そのため睡眠時間を削って、時間を作り出している状態だ。
今日は新学期が始まってから初めての休日で、タシュアは少しでも調査を進めようと、朝からかかりきりだった。だがずっと徹夜に近いせいだろう、どうにも進まず一旦切り上げる。
昼には少し早い食堂は、まだ空いていた。
さっさと食事を取ってきて、適当な席に座る。
いつもと同じ、高級料理店のようには手が込んでいないが、素朴で温かみのある味。
だがデザートは、物足りなかった。食堂のものも十分美味しいのだが、シルファの作ったもののほうが、タシュアには好みだ。
シルファはまだ、帰ってきていなかった。
先日ルーフェイアから聞いた話では、状態もあまり思わしくないようだ。恐らくは精神的なものが原因だろうが……ともかく、帰れるような状況ではないらしい。
(何も言わず、待つべきだったのですかね)
最初出会った頃は何に怯えているのかと思うほど、自信がなさそうだったシルファ。
けれどいつの間にか、それは薄れていった。実力をつけるにつれ、自信もつけたのだろう。
だとすれば、何も言う必要などなかったのかもしれない。あのまま待っていれば、そのうちトラウマも克服できたのかもしれない。
ただ、自分の性格からすると、言わずに済ますことができたかどうか。
(無理でしょうね……)
最後に残った飲み物に口をつけながら、思う。
そもそもが、居る学校が学校だ。何が起こるか分からない。そして危険が分かっていながら対処しないのは、自分にはできない相談だった。
空になった皿を所定の位置に片付け、食堂を後にする。
午後からは、少し身体を動かすつもりだった。自主訓練は日課だし、何より全く動かないと、かえって身体が辛い。
校舎を抜け、島内の森へと足を向ける。
訓練施設へ行くつもりはなかった。あそこに居る敵は弱いものばかりで、タシュアほどのレベルになると全く相手にならない。しかも狭うえに他の生徒も多くて、存分に訓練など無理だった。
いつも使っている、森の奥に着く。ここは丘の影になっていることもあって、ほとんど人は来ない。
――イマドが授業をサボって、寝ていたことがあったが。
とはいえそのくらいで、滅多に人は見かけなかった。
(さて……)
一旦身長ほどの両手剣を置いて、身体をほぐしにかかる。が、その動きが途中で止まった。
ともかく眠い。元から訓練を終えたら仮眠するつもりだったが、逆にしたほうが良さそうだ。
まだ暑い日差しを避け、木陰へ座り込む。
またシルファのことが、脳裏をよぎった。
(帰ってこないかもしれませんね……)
トラウマにあえて触った結果、あの取り乱しようだ。かなりのショックを受けたのだろう。
用意したシルファへのプレゼント――もう誕生日は過ぎた――も、無駄になりそうだ。