Episode:107
いつも私の出した結論を、認めてくれたタシュア。だから今回も、認めてくれるだろう。
出た答えは、単純だ。
もちろん独りが嫌で、だから傍にいる部分も、ゼロとは言わない。だがそれは、主要な理由ではない。
「なんか、納得行ったみたいね。いい顔になった」
「はい」
視線が合って、互いに笑顔になる。
と、つぶやくようにお母さんが言った。
「……タシュアもほんと、一途よね」
「一途?」
さすがに考え込む。
常に自分が最優先で分かりやすいことを差して、「単純」と言った人は居たが……一途というのは初めてだ。
「だってそうでしょ? 大事な彼女のために、ここまでするんだもの。しかも場所までちゃんと選んで」
「……?」
悩む私に、お母さんが言う。
「喧嘩した挙句、片方はさっさと帰っちゃって、片方引きこもり。タシュアったら、うちならちゃんと面倒見るって踏んだんでしょうけど、これがどこかのホテルだったら大騒ぎよ?」
確かにそうだ。
「すみません、ご迷惑をおかけして……」
「あぁ、いいのいいの。ここのみんなも何やかや言いながら、けっこう楽しそうだったしね。滅多に客も来ないから、やり甲斐あったみたい」
言って明るく笑う。
この人はきっと、この懐の深さで、好かれているだろうと思った。
「……あの」
思い切って、訊いてみる。
「見ず知らずの私に、何故ここまで……」
「んー、なんとなく?」
ちょっと首をかしげながら――ルーフェイアと同じ癖だ――お母さんが言う。
「……っても、あなたじゃ納得しないかな」
言って、どこか寂しい表情になる。
「タシュアってね、友達の子なのよ。っても、最近までシエラに居ることさえ、知らなかったんだけどね」
それだけで、何があったかは察しがついた。同時にあのよく分からない契約の内容も、腑に落ちる。
その友達が亡くなったとき、恐らくこの人は知る機会さえなく、何も出来なかったのだろう。
罪滅ぼし……とは少し違うだろうが、これもまた自分を納得させるための、ひとつのやり方なのかもしれない。
――そこで私まで含めるのは、やりすぎの気もするが。
ただタシュアからしてみれば、私にも庇護がある方がいいだろう。お母さんもその辺まで読んだ上で、今回の措置を取ったには違いなかった。
しかもオマケのはずの私を、身内のように可愛がってくれている。これで文句を言っていては、天罰ものだ。
そのお母さんに、笑顔で問われる。
「これから、どうするの?」
「分かりません。でも一旦学院へ帰って、またよく考えます」
進路のこと、生きていく理由、考えることは山ほどある。しかもそのどれもが、難関中の難関だ。
だが時間をかけて、考えていこうと思う。
「もしかするとタシュア、あなたの視野を広げたかったのかもね。もっとも、他のやり方があったとは思うんだけど」
「タシュアですから」
言って、二人で顔を見合わせて笑う。この会話を聞いたら、彼はどんな顔をするだろう?
「――あの子、いろいろと異常だから。頼むわね」
「はい」
もう一度、私たちは笑った。