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空(うつほ)なる真実 ルーフェイア・シリーズ11  作者: こっこ
Chapter:9 閑話休題、孤島にて
106/114

Episode:106

 お母さんに急かされたからだろう、思いのほか早く、同じデザートが届く。

「これこれ。美味しいのよねー」

 嬉しそうに食べる様子が、やはり子供のようだった。


「あら、あなた食べないの? もう終わり?」

「あ、はい……」

 昨日までずっと食べていなかったせいか、なかなか入らない。


「まぁ仕方ないわね。急に食べて、お腹壊してもアレだし」

 そんな風に言いながら、デザートを食べていたお母さんが、不意に訊いてきた。


「それにしても、タシュアはなんで唐突に『自分が死んだら』なんてこと言い出したのかしらね?」

「え……?」

 答えが何も思い浮かばない。


 「私がどうするか」ということは、ずっと考え続けている。でも、「なぜ」タシュアが言ったかは、考えていなかった。

 だが言われてみれば、不思議だ。なぜタシュアは急に、そんなことを言い出したのだろう?

 私に考えて欲しかったから、それは分かる。だがなぜ、「考えて欲しい」などと思ったのか。


「何か心当たり、ないの?」

「そう言われても……」

 返答しようとして、ふと思い出す。その話の直前に、タシュアがこれからどうするのか、と言っていたことを。


 これからどんな進路を選び、何を目標にどう生きるか。

 大事なことだと思う。だが答えるのはとても難しいし、そもそも一朝一夕で、結論が出せるようなものではない。

 考え込んでしまった私に、お母さんが問いかけた。


「思うにね、彼、怖かったんじゃないかしら?」

「タシュアが――怖がる?」

 全く想像がつかない。だいいち彼は、出来ないことを数えたほうが早いくらいだし、どんな事態でも冷静だ。

 そもそもタシュアが、そんなふうに感じる物があるのだろうか?


「あぁ、別に敵が怖いとか、そういう話じゃないわよ。

 そうじゃなくてね、自分が死んだ後って、責任持てないじゃない? なのにその時シルファ、あなたに何かあったら……って」

「あ……!」

 私の中で何かが繋がる。


 シエラ傭兵学校ということもあって、死は案外身近だ。同級生が、命を落とすことさえある。

 だがそんな環境でも、私は自分が死んだ後のことを、心配したことはなかった。

 タシュアに申し訳ないから、とことんまで生き延びる気ではあるが……万一そうなっても、タシュアはきっと生きていくだろう。


 けれどタシュアから見た場合、私はそうは見えなかったはずだ。

 私は独りを極端に嫌う。それをよく知っているタシュアには、自分が死んだ後私が自力で立てるようには、思えないだろう。

 だからあんなことをいい、私にパニックを起こさせてまで、考えさせようとしたのだ。


 なんだか可笑しくなる。

 タシュアはいつもそうなのだ。だからと言って何か強引に手を出すのではなく、せいぜいが助言だけで、あとは待っている。

 責めるわけでも、急かすわけでもない。ただただ、答えを出すまで待つのだ。

 そして今回も置き手紙までして、ひたすら待っているのだろう。


 ――気が長いな。

 つい、そんなことを思う。

 けれどそれは、信頼の証とも言えるだろう。タシュアがこうやって待つ相手は、ほとんど居ないのだから。





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