Episode:106
お母さんに急かされたからだろう、思いのほか早く、同じデザートが届く。
「これこれ。美味しいのよねー」
嬉しそうに食べる様子が、やはり子供のようだった。
「あら、あなた食べないの? もう終わり?」
「あ、はい……」
昨日までずっと食べていなかったせいか、なかなか入らない。
「まぁ仕方ないわね。急に食べて、お腹壊してもアレだし」
そんな風に言いながら、デザートを食べていたお母さんが、不意に訊いてきた。
「それにしても、タシュアはなんで唐突に『自分が死んだら』なんてこと言い出したのかしらね?」
「え……?」
答えが何も思い浮かばない。
「私がどうするか」ということは、ずっと考え続けている。でも、「なぜ」タシュアが言ったかは、考えていなかった。
だが言われてみれば、不思議だ。なぜタシュアは急に、そんなことを言い出したのだろう?
私に考えて欲しかったから、それは分かる。だがなぜ、「考えて欲しい」などと思ったのか。
「何か心当たり、ないの?」
「そう言われても……」
返答しようとして、ふと思い出す。その話の直前に、タシュアがこれからどうするのか、と言っていたことを。
これからどんな進路を選び、何を目標にどう生きるか。
大事なことだと思う。だが答えるのはとても難しいし、そもそも一朝一夕で、結論が出せるようなものではない。
考え込んでしまった私に、お母さんが問いかけた。
「思うにね、彼、怖かったんじゃないかしら?」
「タシュアが――怖がる?」
全く想像がつかない。だいいち彼は、出来ないことを数えたほうが早いくらいだし、どんな事態でも冷静だ。
そもそもタシュアが、そんなふうに感じる物があるのだろうか?
「あぁ、別に敵が怖いとか、そういう話じゃないわよ。
そうじゃなくてね、自分が死んだ後って、責任持てないじゃない? なのにその時シルファ、あなたに何かあったら……って」
「あ……!」
私の中で何かが繋がる。
シエラ傭兵学校ということもあって、死は案外身近だ。同級生が、命を落とすことさえある。
だがそんな環境でも、私は自分が死んだ後のことを、心配したことはなかった。
タシュアに申し訳ないから、とことんまで生き延びる気ではあるが……万一そうなっても、タシュアはきっと生きていくだろう。
けれどタシュアから見た場合、私はそうは見えなかったはずだ。
私は独りを極端に嫌う。それをよく知っているタシュアには、自分が死んだ後私が自力で立てるようには、思えないだろう。
だからあんなことをいい、私にパニックを起こさせてまで、考えさせようとしたのだ。
なんだか可笑しくなる。
タシュアはいつもそうなのだ。だからと言って何か強引に手を出すのではなく、せいぜいが助言だけで、あとは待っている。
責めるわけでも、急かすわけでもない。ただただ、答えを出すまで待つのだ。
そして今回も置き手紙までして、ひたすら待っているのだろう。
――気が長いな。
つい、そんなことを思う。
けれどそれは、信頼の証とも言えるだろう。タシュアがこうやって待つ相手は、ほとんど居ないのだから。