Episode:102
◇Sylpha
潮騒の音が、響いていた。
あの日から何日経ったのだろう? 何度か夜があった気がするが、よく分からなかった。
――タシュアが、いない。
思うのはそればかりだ。
クラスや学年が違うから、常に一緒というわけではないが……それでも私が望めば、任務でもない限り一緒に居られた。
なのに、行ってしまった。ずっと恐れていたことが、起こってしまった。
怖かった。また独りになるのが怖くて、だから置き去りにされないよう、隣に立っていられるよう、必死に勉強し、訓練を重ねてきた。
それでもこうなったということは、やっぱり私では、ダメだったのだろうか……?
彼の言葉を思い返す。
自分が死んだらどうするのか、立ち直れるのかと、タシュアは訊いてきた。
訊いてきたからには、何か答えるべきだったのだろう。けれど、考えることさえ出来ない。
タシュアが死ぬということは、私が独りになるということで……。
思っただけで、身体が震えて涙がこぼれる。あの辛さが甦る。
良くない状態だということは、自分でも分かる。何かの拍子にこうなるようでは、先々問題だろう。
けれど、どうすることもできない。どうしたらいいのか分からない。
「私は……」
誰にともなく、言葉が口をついた。
何かにすがりたくて、視線をめぐらす。
と、タシュアの置き手紙が視界に入った。
手を伸ばして、引き寄せる。
『新学期が始まるので、一足先に学院に戻ります』。そう始まって、『時間をかけて、よく考えてみてください。自分のやりたいこと、そして自分の生きる道を』と続く文字。
「私は……何をしたいんだろう……」
言葉にしてみたが、よくわからない。
タシュアに追いつきたい、横に並んで歩きたい、その一心だった。
それではダメなのだろうか……?
今までタシュアは、私の決めたことを、そのまま認めてくれていた。
明確に反対の色を示したのは、武器を変更すると決めたときぐらいだ。それでも結局は、認めてくれた。
だから、今回が二度目になる。
――だとしたら、何故。
あるいはもう愛想が尽きて、行ってしまったのだろうか?
自分で考えたことに怖くなって、それでも泣きながら考える。
なぜタシュアは、ここに居てくれないのだろう? 何を考えろと言うのだろう?
堂々巡りをするばかりで、答えが出ない。
ただ確かなのは、隣に居てほしいという私の思いが、彼の思う「何か」と食い違っていることだ。
どうにも考えがまとまらなくて、ぼうっとしてくる。
テーブルの上には、食事が置かれていた。記憶と違うから、眠っている間に取り替えてくれたらしい。
私が食べないせいだろう、冷たいスープやムースなど、口当たりのいいものばかりだ。
その中からなんとなく、ゼリー寄せを手に取る。甘くしたお菓子ではなく、煮た野菜などが入ったタイプだ。
ひと口食べてみると、予想以上の美味しさだった。さすが、この屋敷の厨房を預かるだけはある。