Episode:101
「まぁそのうち、何がホントか分かるんじゃないか?」
「そだね」
元が噂話だから、棚上げすることで落ち着いたらしい。これ以上は追求されなさそうで、ほっとする。
――それにしても。
最初にこの噂を言い出した人、何を考えてたんだろう? 浮気とか別れたとか、あの先輩じゃありそうにないの、分かりそうなのに。
何より、あの母さんを捕まえて浮気相手とか、先輩が可哀想だ。
だいいちこの話だって、母さんが強引に着いて来たところから始まってる。せめてケンディクまでにしてくれれば、こうはならなかった。
母さん的にはなかなか一緒に居られないから、少しでも一緒に居ようっていうんだろうけど、けっこう迷惑だ。
そんなことを思いつつ食べていて……周りを見回して気づく。
「人……少なく、なってない?」
いつの間にか、食堂の中ががらがらだ。
「え? あ、やだ。話してたらこんな時間!」
「ヤバいね。急いで食べて、教材持って行かないと」
話に夢中になって、時間を忘れてたらしい。みんなで慌ててご飯を食べて、立ち上がる。
「1時間目、なんだっけかね?」
「えっと……魔法物理学」
「きゃー、予習してないっ!」
そんなことを言いながら、ともかく遅れないようにと、あたしたちは走り出した。
放課後日も暮れたのに、あたしはまだタシュア先輩を探してた。
教室にも二度ほど行ってみたけど、どうも時間割が合わないらしくて、どちらも空振り。昼休みも会えなかったし、そのあと今日はいろいろやることがあって、けっきょくこの時間だ。
少し考えて、図書館へ向かう。タシュア先輩は、ここがいちばん確率が高い。
けど先輩の姿はなかった。もう時間が遅いから、どこかへ行ってしまったのかもしれない。
かといって、部屋は分からないし……。
誰か男子を捕まえて訊けばいいのだろうけど、なんだか気後れする。
しばらく考えて、あたしは食堂へ行ってみることにした。
先輩がどこにいるかは分からないけど、食べにこないってことはないだろう。だったら食堂で待っていれば、捕まえられるはずだ。
食堂のおばさんにわけを話して、入り口近くの席で、待たせてもらうことにする。
少しづつ人が増えていく、食堂内。
それを眺めながら、どのくらい経っただろう? 見間違えようのない銀髪が、やっと入ってきた。
先輩が食事を揃えて席に着くのを待って、急いで立ち上がる。
タシュア先輩はなんのだか分からないけど、フォークを片手にもう資料を見ていた。
「あの、タシュア先輩……」
「なんの用です」
顔を上げた先輩の、いつもどおりの声。けどシルファ先輩を心配してないわけじゃ、ないと思う。
「その、シルファ先輩のこと……なんですけど」
「彼女が何か?」
言っていいのかどうか、ここまで来て迷っている自分が居た。でもシルファ先輩のことを一番知りたいのは、タシュア先輩のはずだ。
だから、言う。
「シルファ先輩……かなり具合が、悪いらしくて。まだしばらく、帰せないって……」
「そうですか、ありがとうございます」
ただそれだけの返事。先輩がどんな気持ちでいるのかは、見ているだけでは全く分からない。
「まだ何か?」
そのまま立っていたせいだろう、先輩に言われる。
「え? あ、 すみません」
謝ってテーブルから離れかけて……でも振り返って見たタシュア先輩は、少しだけ悲しそうにも見えた。