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Episode:01

◇Sylpha

「タシュア、来週は空いているんだろう?」

 なんだか分厚い上に、難しそうな本を読んでいるタシュアに話しかけたが、返事はなかった。


「空いて……いるのか?」

「はい?」

 初めて気付いた様子で、やっと彼が顔を上げる。


「何か言いましたか?」

 タシュアにしては珍しく、本に夢中で全く聞いていなかったらしい。


「そんなに、面白いのか?」

「ええ」

 彼が読んでいるのは、かなり古そうな本だった。皮で装丁され、金箔をうった飾り文字が、その標題を現している。


「ネグイ……?」

 読んでみたが分からない。だいいちこの標題は、ケンディク語でもアヴァン語でもなさそうだった。


「シルファ、それはアヴァン語読みです。これはローム語で、『ネゴリ記の解釈』ですよ」

「ネゴリ記? そう言えば、聞いた覚えはあるが……」

 だがどこで聞いたかは、さっぱり思い出せない。


「上級の資格を持っているのに、それでは困りますね。

 ローム文明の歴史書であるネゴリ記の、これは解釈本ですよ。本家本元のネゴリ記がほとんど現存していないせいで、この時代の歴史はほとんどこれが公式になっているんです」


 すらすらとタシュアは答えたが、私にはピンとこなかった。

 彼と違って、私は歴史は大の苦手だ。


「あなたも読んだほうが、いいのではないですか?」

「いや、遠慮する……。

 だがこの本、どうしたんだ? 貴重なものに見えるが……」

 どこかの大きな図書館にならわかるが、個人が持つような本にはとてもみえない。


「ルーフェイアが、持って来たのですよ」

「――あの子が?」

 確かにかなりのワケありとは思っていたが、さすがにこれには驚く。


 給料をもらっている上級傭兵の生徒ならまだともかく――いやそれでも、こんな本を持っているのは明らかにおかしいだろう。

 不思議がる私に、タシュアは答えた。


「そう言えばシルファは、詳しいことは知りませんでしたね。

 あの子は――ルーフェイアは、古くから続く家の跡取り娘なのですよ」

「あ、それで……」

 いつぞやのドレスの件などと重なって、少し納得する。だがそれほどの少女がこの学院にいるというのも、おかしな話だった。


「シエラ以外にも、行くところはあるだろうに」

「あなたが気にしてどうするのです。選んだのは本人ですよ」

 タシュアの正論。


「事実ここでやれているのですから、問題ないと思いますがね」

「まぁ確かにあの年で……きちんと、戦える子だからな……」


 普通の学校ではなくMeSに転入したという理由は、それしか思い当たらない。

 だがそれなら、いったいどこでそれを覚えたのか。

 もしかするとタシュアと同じで……。




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