Lesson 3 水の精霊 4
「連絡ならこれで話すといいよ」
少年が立ち上がると手のひらサイズの細かな細工が施されたオルゴールのような箱を持ってきた。蓋を開けると中には丸いドーム型の水晶のような石が入っていた。水晶は透明だがまわりに赤いオーラが漂っている。
「これは?」
「魔石だよ。君が今話したい人をイメージするんだ」
「わかった」
パパ...ママ!
ヴーン...
水晶の真上に映像が投映されるみたいだ。あ...あれは...!?
映像は不鮮明だが、日本にいる凛の両親が映し出されていた。凛の両親は凛がいなくなった事で憔悴しきった表情だった。
間違えた!!つい...パパとママって言ったら2人の顔が思い浮かんで...。お父さん、お母さんごめんなさい...帰りたいけど私も帰り方がわからない...
「ちょっと間違ったみたい...」
ぐっと涙が出そうになるのを堪え言葉を濁しながらもう1度マレ侯爵夫妻を思い浮かべる。
ヴーン...
『アドリアナ!何処にいるんだ?』
今度はちゃんとマレ侯爵夫妻が現れた。
何処って...えーと...
「令嬢はフォルティス公爵家にいます」
アドリアナの真横にいつの間に立っていたのか、少年は言った。
『君は...そうかそれなら安心だな』
マレ侯爵は少年を見て何かを察したのかほっと息を吐き、安堵の色を見せる。
〝フォルティス公爵家〟...そういえばこのコの名前まだ聞いてなかったわ。
少年はアドリアナと同じ位の年齢に見えるが、凛から見れば子供だ。
「3の時にはアルドル公爵邸へ令嬢をお連れします」
『それでは娘を頼むよ』
マレ侯爵がそう言うと映像が消えた。
...というかあの魔石って来世も映るの!?和瀬君の様子もあの魔石で見れるんじゃ...
アドリアナはソワソワと落ち着かない様子で魔石の箱を仕舞う少年の後ろ姿を見ていた。
あれがこの世界の通信用の道具だとしたら、ウチにもあるよね?...帰ったら探してみよう。
*** ***
「こんにちは可愛らしい御令嬢。私はルークの兄のアレックス・マギア・フォルティス...以後お見知り置きを」
「は、はあ...」
昼食を終えた後、〝少年は用事がある〟と言い残し、今まで私は客間で1人だったんだけど...少年のお兄さんがにこにこと嬉しそうな顔で挨拶してくれた。
アレックスは今年18歳になる。現在騎士団所属でブルーと白の団服を着ている。銀色の髪にアメジストのような紫色の瞳。少年とは別タイプの整った顔立ち...団服が似合う凛々しく爽やかな青年だ。
貴族ってこうゆう挨拶普通にするんだ...うう、慣れない。
そっか?あのコ、〝ルーク〟っていうんだ。お兄さんは愛想がいいのに...正反対の兄弟ね。
「兄上...此方はマレ侯爵令嬢」
アドリアナが凛々しい爽やかイケメンに気を取られていると、ルークがアレックスより遅れて客間に入って来た。
あ...
「アドリアナ・ステラ・マレでございます。今日は突然無理なお願いをして申し訳ございません」
うっかりしてた。自己紹介されたら此方も返さなくちゃいけなかった!それにしても舌噛みそう...
「ホント、湖で泳いでるから何処の田舎娘かと思ったけど、侯爵令嬢だったとはね」
「泳いでないっ!来たくて来たわけじゃないから!」
「魔力がコントロール出来なくて失敗したんだっけ?このままだと君、周りに迷惑かけるよ」
ゔ...このコの言ってる事は間違ってないだけに反論出来ないッ〜!でも精霊の加護受けてるなんてわかるわけ無いじゃないっ?そもそも精霊が存在してるとか今日知ったし!...なんでコイツ...このコには解るのよ?
言葉遣いが悪くなりかけたが、相手は小学生位の子供だ。冷静に...冷静に...アドリアナは自分に言い聞かせる。
「まあまあ、2人とも落ち着いて!そんなに気になるならルークもパーティー来れば?」
アレックスはクックッと笑うのを我慢しながら2人を見比べた。
「そのパーティーに僕は招待されていないから魔法門が使えなくなりますよ?...兄上、令嬢をよろしくお願いします」
ルーク&アレックス。フォルティス公爵家子息の2人。
※更新は不定期になります