表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巫女になりたくないので回避します。  作者: 天ノ雫
【第1章】 ルシウス帝国転移編
72/177

Lesson 27 クラーク伯爵の真意を探ってみる 


 ルシウス帝国皇宮に隣接している薬学研究所ーー此の中に薬室はある。薬室は日本で言うとドラッグストア、薬学研究所は製薬会社のようなものである。

 基本は皇宮の人達や貴族が利用しているが近隣の町の医師が薬を仕入れにやってくる事も多い。人の出入りが多い為、皇宮の隣とはいえ薬学研究所との間には蔦で覆われた高い塀と1人では開ける事が出来ない頑丈で重い大きな門があり、前には門番が常時立っている。門番は騎士が交代制で立つ事になっていて、今日は第3騎士団の騎士が立っていた。


 「これはフォルティス公子!どうぞお通り下さい」


 騎士団の人達には基本顔パスのフォルティスは右手を軽くあげて「ありがとう」と一言礼を言うと難なく通過した。フォルティスと一緒にいるというだけで私も何も訊かれずに通過できる。

 

 アドリアナは通り過ぎた後、薬室研究所側に立つ騎士をもう1度見る為に後ろを振り返った。


 第3騎士団の団服初めて見た...黒ベースに紫色、背には青いキアノの花が刺繍されてる。〝キアノ〟というのはトルコ桔梗に似た花で、これから開花時期を迎えるルシウス帝国の国花だ。


 それぞれ騎士団によって団服の色や刺繍が違うんだけど第3騎士団は滅多に会えないから今日は見れて幸運(ラッキー)だったなあ。


 第3騎士団は薬学研究所との共同開発や魔法の研究...他国にいるルシウス帝国の魔導師達と連携し結界を張ったりするなどの国防を行ったりしているらしく、アンカーズの街では殆ど見かける事が出来ない騎士団なのだ。


 その第3騎士団を昔率いてたなんてトラヴィス侯爵って凄いよね?


 アドリアナは第3騎士団の団服姿の若かりしトラヴィス侯爵を勝手に想像しながら自分の事のように誇らし気に笑った。

 



 『君は1度ユージーンに会ってるからこれ飲んで』


 『...何コレ?』


 『普段フレッドが飲んでる染色のポーション』


 『...苦っっ!?なんでこんな不味い(まずい)のっ!?』




 私は数分前の記憶を思い起こし、まだ口の中に残っている不快な苦味を感じて顔をしかめた。


 あんな苦いモノを帝国の皇太子にいつも飲ませてるなんて...この人絶対Sだわ。...こんなポーション作れるくらいなら味なんて幾らでも変えれるでしょっ?フレッドも文句言わないのかな...こんな不味いモノ飲まされて。


 フレッドが飲んでいる染色のポーションを飲まされ煉瓦色の髪とペリドット色の瞳になった自分の姿を、今歩いている通路に等間隔で壁に埋め込まれた窓の横に差し掛かる度にアドリアナは横目で確認した。


 なんか変な感じ。そりゃアドリアナの姿自体も私じゃ無いけど。


 「...君は僕の学院の友人で婚約者という設定にしよう」


 「は...?婚約者!?」


 何それ?なんでそんな事になるの?


 「そうだな...パラス令嬢の名を借りようか...うん、お互い名前で呼び合おう。いいかな?ティナ」


 「ちょっと!勝手に設定決めないでよっ!それに名前で呼び合うとか必要?」


 「ユージーンは研究員で頭も良いから一度見たり聞いたりしたものは覚えてるんだ。マレ令嬢の名前も1度会ったなら誰かに聞いてるかもしれない...僕の婚約者なら皇宮に連れて来ても不自然じゃないし幼馴染に紹介するという理由でユージーンをティータイムに誘っても問題ないだろう?」


 ぐぐっ...この人の言う事は最もだけど〝婚約者〟って...嘘でも嫌だ。...でも確かに幼馴染の婚約者相手になら気を許して何か話すかもしれない。


 アドリアナは覚悟を決めたのか心の中で『よしっ』と呟くと意を決して嫌々ながらもぼそぼそと呟いた。


 「え、え...っと...ルーク...様?」


 くう...っ、なんかよくわかんないけど屈辱っ!


 「...うーんなんか堅いな〜...〝様〟は要らないよ?」


 ルークはアドリアナの自分の名の呼び方に文句をつけながらも深いガーネット色の瞳の奥は楽しそうにキラリと光っていた。


 薬室がある薬学研究所はオニキス宮の一画にある。アドリアナとルークは窓から見える薬草を栽培している薬草園を眺めながらまっすぐ突き進んで行く。やがて壁一面に書物や薬の棚がびっしりと整頓されている大きな部屋に足を踏み入れた。


 うわ...皆忙しそう。


 たくさんの研究員らしき人達が其処ら中で忙しく働いていて、辺りを見まわしてみるがユージーンらしき姿は見当たらない。


 「ディアス卿」


 「フォルティス公子?こんな所で会うとは...何か入り用かな?」


 ディアス卿と呼ばれる第3騎士団の団服を着た男性...フォルティスが声を掛けたのはフィン・ルドマ・ディアス。ディアス公爵家の長子だ。甘いティーラテ色の髪はふわりと柔らかそうで瞳はエメラルドグリーン。フォルティス卿とはタイプが違う...話し方も柔和で初対面でも相手を緊張させない雰囲気を持っている。


 「いえ、クラーク伯爵に会いに来たのですが見かけませんでしたか?」


 「ああ〜...クラーク殿なら休憩してると思うよ?」


 ディアス卿は顎をクイッと動かすと目線を部屋の外に移した。


 どうやらクラーク伯爵は外のテラスに居るっぽい。


 フォルティスは特に私をディアス卿に紹介する事なく『ありがとうございます』と一言だけ言いテラスへ向かう。私は挨拶しなくていいのか不安で2人を交互に見るがフォルティスが気にせず私を置いていきそうになった為、取り敢えずディアス卿に急いで礼をしてフォルティスを追いかけた。


 「あの令嬢は...おかしいなぁ?綺麗なお嬢さんは1度見たら忘れないんだが僕が忘れるとは...」


 「おい、あんな幼い令嬢までちょっかい出すなよ?ありゃフォルティス公子の連れだぞ?こんな所に連れてくるんだから婚約者かなんかだろ」


 フィンの同僚の男性騎士が呆れ顔で諭す。


 「〝婚約者〟...ねえ?今はそうでも未来は変わるからね」




 「ユージーン」


 「...ああ...ルーク久しぶりだな」


 テラスに出ると幾つか並べられた席の1つに腰を掛けて本を片手に紅茶を飲むクラーク伯爵が居た。


 「一緒にお茶しても?」


 「勿論!...あれ、君は...」


 アドリアナはつい先日一瞬だが会っている事をユージーンが思い出さないかドキドキしながら2人の会話を聴いていた。


 「僕の学院の友人なんだ。彼女皇宮(ここ)に用事があってさっきバッタリ会ってね...ユージーンに紹介したくて連れて来たんだ」


 「ティナ・フォン・パラスと申します」


 ユージーンに促されてルークとアドリアナは座る。ユージーンは少し離れた所に控えている給仕専門の侍女を呼んだ。侍女はすぐに2人の紅茶を運んで来た。


 ほっ...どうやらバレてないみたい。


 「ティナはパラス伯爵令嬢で僕の...婚約者なんだ」


 「ルーク...婚約者なんて居たのか?」


 ユージーンの孔雀石(マラカイト)のような深い緑色(ビリジアングリーン)の瞳が大きく揺れた。


 「...まだ正式では無いけどね...だから父上と兄上にはまだ言ってないんだ」


 「成る程...」

 

 ルークの1つの言葉でユージーンは10を理解した。

 貴族の婚約は家同士の結びつきの為、家の当主...つまり父親がこの婚約を知らないと言うことはあり得ないのだ。

 正式ではなく家の者が知らされていない婚約者...この短い会話でルークがティナ(のふりをしているアドリアナ)を政略結婚の為の相手では無く、心から大事にしている...という意味が読み取れるのだ。


 「2人にはいつか話すつもりだけどユージーンに先に聴いてもらいたかったんだ」


 はあ、よくもまあこんなにペラペラと嘘言えるわね。ティナ?いつの間にかフォルティスの想い人になっちゃったわよ...?


 ティナが居たら歓喜してはしゃぎそうなシチュエーションである。...あ、でもティナの好みってフレッドだっけ?


 いつもの大人びた口調は何処へいったのか、悩みを打ち明ける年相応の少年に見える。


 よし、やっと口の中の苦い味無くなったわ。


 アドリアナは侍女が用意してくれたミルクティーを半分ほど飲み終えた所で一息つく。


 「僕で良ければいつでも相談に乗るよ?勿論君もね」


 アドリアナがはあ〜と息を軽く吐いたのを見て緊張していると思ったのだろう。アドリアナの緊張を解そう(ほぐそう)とユージーンはアドリアナのペリドット色の瞳を見つめて優しく微笑う(わらう)とスイーツの並んだ皿を目の前に出した。


 ゔ...なに、この笑顔の破壊力?18歳で落ち着いた雰囲気に加えてこの包容力...こんな所にいないでキルケの王様になった方が良かったんじゃ?


 ユージーンの笑顔にクラクラしながらもアドリアナは差し出されたスイーツの中にチョコタルトがあるのを見逃さなかった。


 美味しいっ...!!う〜ん...このサクサクとしたタルト生地に蕩けるようなチョコの口溶けとコーヒーの苦味...んんっ!?コーヒー?そういえばコーヒーの味がするスイーツは初めてだ。


 「君は本当にチョコ系のスイーツが好きだね」


 ルークの呟きからは若干呆れてるように聴こえる。しかしアドリアナは気にしない。もぐもぐと二口目でチョコタルトを食べ切った。


 「ルーク...も食べてみて?コーヒーが少し入ってて甘すぎないし食べやすいわよ」


 美味しいスイーツを堪能してご機嫌だからなのかアドリアナは自然にルークの名前を呼ぶ事が出来た。


 「ああ...ホントだ...これは食べやすいね」


 チョコタルトは飾りにホイップクリームとその上にコーヒーの豆を擦り潰した粉がかけられていたのだ。


 「でしょっ?」


 素直に美味しいものを食べるとにこにこと満面の笑みになるアドリアナ...ルークは一瞬眩しそうに目を細めたがある事に気がつきふっと微笑(わら)った。





 オニキス宮で働く侍女達は主に飲み物や軽食を作ったりしていますが、給仕ウェイトレスの仕事はたまにしかしません。


オニキス宮では薬室研究員や薬を求めて来る人も多く一般人の方が多い為、食堂やティースペースはバイキング形式になっていてセルフサービスです。


 仕事内容は皇宮侍女の中では簡単な上、貴族から商人、医師、一般人まであらゆるジャンルの人達が出入りする為、出会いには困らない!!...玉の輿を狙うアンカーズの街の独身女性の中では人気の職場です。


「私オニキス宮の侍女に志願しようかな〜」


 そういえばティナは伯爵令嬢だから、クリスタル宮やルビー宮の皇女や王妃の侍女にもなれるのに、そんな事言ってたな...


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ