Lesson 21 見てはいけない 6
ん...?びくともしない?結構体重乗せて押したんだけどな...?
もう1度肘に力を込めて勢いをつけて押してみよう...
「きゃっ!?」
さっきは全く動かなかったのに何故か今度は重たそうな扉が簡単に動いて、アドリアナは勢い余って前に倒れそうになった。
「び、びっくりしたあ〜...何で急に軽くなるのっ?」
足にぐっと力を入れて何とか踏ん張る。倒れるのを防いだアドリアナは灯りのない部屋の中をきょろきょろと見廻した。ソファやテーブル、壁に掛かった等身大の鏡、続き部屋には天蓋付きの可愛いベッド...使っている形跡は無いが明らかに女性用の部屋である。
「ここ...私初めてじゃないような...?」
窓の隙間から入る月明かりのお陰で部屋の様子が見えて来た。
暗闇に慣れて部屋の距離感が掴めたアドリアナは窓辺に近づき外を覗いてみる。
あ...ここからクリスタル宮のバルコニーが見えるんだ。...っ??
ドクンッ
な...に?心臓が...苦しっ...い?
心臓をぎゅっと掴まれている様な苦しみを感じて私は左手の中にある精霊の祝福の欠片を思わず強く握りしめた。
握っている指の隙間から祝福の欠片の銀の光が溢れ出て、真っ暗な部屋の中に閃光が走ったようになった。そしてアドリアナは真っ白な世界に飛ばされた様な感覚に襲われた。
此処は...?
クリスタル宮に続く回廊?
あれっ、私今部屋の中に居たはずじゃあ?
足元がふわふわしてる。どうやら宙に浮いているみたいだ。...私の意思に関係なく私の身体はどうやら何処かへ向かっている様だ。
景色が急に変わり、クリスタル宮の大広間...玉座が正面に見える位置に私は居た。
あれは...アドリアナ!?
玉座の前の階段の下で膝まづくアドリアナーーー
玉座にはルシウス帝国の皇帝が...そして隣にはアルフレッド皇太子が座っていた。
アドリアナもアルフレッドも今の私より年上だ。15、16歳くらい?
「マレ侯爵令嬢、兼ねてより話していた件だが...ルシウス帝国の...いや、この大陸に住む人々の為に...助けて欲しい」
「...承知...致しました」
アドリアナの表情は此処から見えないけど...声は震え、か細い声は聴き取るのがやっとだ。
何を承知したの?助けるって何?どういう事!?
場面はまた変わり、アドリアナとマレ侯爵夫妻、トラヴィス侯爵もいる。其処は険しい岩山が続く場所だった。
「アドリアナ!やっぱりやめましょう?こんな事!」
涙を流しながらママがアドリアナを抱き締めた。パパとトラヴィス侯爵は悔しそうな表情で2人を見つめていた。
険しい岩山の向こうからこの世の物とは思えないような地鳴りの様な声が聴こえてくる。
アドリアナはママから離れると後ろへ数歩進めて皆から距離を取った。
「さようなら」
『お父様、お母様...何も出来ない娘でごめんなさい。この16年間、心配ばかりかけてごめんなさい。
でも皆の幸せを守る事が出来て...お父様とお母様を守る事が出来て...良かった。』
アドリアナの心の声が私の頭の中に直接響いてくる。
アドリアナは後ろへ少しずつ歩を進めて3人からどんどん離れていく...
「アドリアナっ!!」
**
はあ...結局今年も精霊の祝福の欠片には出会えなかったか。
「あれ...貴方は」
マレ令嬢の従兄のアルドル卿...
「フォルティス公子?」
「何かありましたか?」
ルークはテオドールの緊迫した様子を察知して尋ねた。
「アドリア...マレ侯爵令嬢を探しているのですが...公子、心当たりはありませんか?」
「さっきまで一緒に庭園にいた。会場に戻ったはずだけど?」
「それが...戻っていないので今探しているのです」
テオドールはセシリア皇女の護衛でアドリアナを探すように申しつけられたようだ。
「...わかった。ちょっと待って...」
ルークは手の先を額に当て眼を閉じると、何か集中し始めた。数秒で直ぐにカッと赤い眼は開かれ、回廊を歩き出す。
「フォ、フォルティス公子?」
「こっち...ついて来て」
スタスタと歩き始めていたルークの後をテオドールは慌てて追った。
開いてる...
キイ
ある部屋の前に立ち止まったルークは、少し開いた状態の片側の扉をゆっくり押して中に入った。扉から対角線上にある窓の下に月明かりがちょうど当たっていた為、2人共其処に横たわっている人影に直ぐに気づく事が出来た。
「アドリアナ!?」
テオドールは窓の下で倒れている人影がすぐにアドリアナだとわかると急いで駆け寄り抱き起こした。
「大丈夫か?アドリアナしっかりしろ!」
「アルドル卿、落ち着いて。騒ぎになるとまずい...」
ルークは片膝を着きテオドールの顔に自分の顔を近づけると人差し指を唇の前に立て、小声で言った。
あ...
テオドールは〝しまった〟といった表情になる。
アドリアナは今日、クレーメンス公爵令嬢の代役として皇太子のパートナーを引き受けている。皇太子のパートナーをしている事だけでも注目されているのに会場でも何でもない部屋で倒れていたなんて噂になったら社交界デビュー前のアドリアナの評判にキズがつくかもしれない。
「アルドル卿は〝マレ令嬢は見つかった〟とセシリア皇女に報告を。...マレ令嬢は心配ない、僕がアルバアラス寮まで連れて帰るから」
「しかし...」
「倒れていたと言えば皇女もマレ侯爵夫妻も心配するだろう...おそらく気を失っているだけだろう、周りに気づかれない様に連れて帰った方がいい」
「...解りました。フォルティス公子、アドリアナをお願いします」
「もちろん」
テオドールが走り去ったのを見送ると、ルークはアドリアナの上半身を抱き起こし、顔を覗き込みながらフッと微笑った。
「〝もしかして転生者?〟...って、君も転生者だろ」
あのドレスにデザインした桜の刺繍を見て僕はネックレスを作らせたんだから。まさか桜の花が此処に存在してないとはね...僕もまだまだ勉強不足だな。
ルークはアドリアナを軽々と抱き上げると身体中から赤いオーラを出し、空間移動した。
ルークは転生者...認めたな!?
アドリアナが迷い込んだ部屋は...誰の部屋なのか?
※ 更新は不定期になります。




