Lesson 19 仲がいいのか悪いのか? 2
いいなあ...私の部屋にもゲート欲しい。
魔法関連の書物が置いてある事から、此処はルークの私室なのだろうか?
さっきから紙ペラペラ捲ってしかめっ面してるけど、私に話があるんじゃなかった?
帝国の皇太子が非公式だけど邸を訪問しているというのに侍女すらやってくる気配がないし...誰も気づいて無いの?それとも魔法門で頻繁に来てるからもう放置されてるんだろうか?
うーん...やっぱりお茶くらい出したほうがいいんじゃ...いくら正体を普段隠しているにしてもフレッドが皇太子って事、私は知っちゃったワケだしこのまま何もしないって失礼にあたらない?
元日本人で一般市民だったアドリアナはそわそわと落ち着かなかった。何故なら自分の住んでいる国の皇太子が目の前に座っているのだから、落ち着いてと言われても無理な話である。
アドリアナは部屋の中を見渡して侍女を呼ぶ為の呼び鈴を探したが見当たらなかった。
ルークは変わらず紙を捲り何やら書き記しているし、フレッドはそんなルークを眺めて楽しそうに笑っていた。
「まさか温泉がポーションの効果を消してしまうとはね...改良できそうか?」
「だからこれは試作段階だって言ってただろ?」
「君の事だから学院の入学までに間に合わせると信じてたんだよ」
「はあ...勝手に信じられても困る」
皇太子相手にそんな話し方...いいのか?
フレッドは表向きはクラーク伯爵家でルークのフォルティス公爵家より格下である。
もしかして、フォルティスが学院ではクラークより偉そうな態度なのは演技なんだろうか?...でも今も普段と変わらないような...元々こんな感じなのかな?2人とも。
演技してるとしたらそれって皇太子って周りに気づかれないように?
いくら警備が万全な学院とはいえ、皇太子が通っていると判れば皇宮よりは侵入しやすい学院でフレッドは狙われる可能性がある。
もしもの事態に備えて、周りに危害が及ぼないように正体を隠したまま此処にいるのだろうか。
...という事はフォルティスは皇太子の護衛&側近的な役割?
フォルティスならそんじょそこらの暴漢や暗殺者まで魔法で蹴散らしそうだし...適任だろう。
でも私、前世にフォルティス見たことないんだけど?
うーん...私が覚えてないだけ?
前世では皇太子は仲の良い友達は居なかったよね。フォルティスは従兄弟だけどあまり交流無かったのかしら?私、前世でフォルティスに会った記憶が全然無いのよね...従兄弟なら婚約者のアドリアナにも会ってるはずだと思うけど...
こんなに頭良くって魔法使える人が皇太子の従兄弟なら有名人だろうし、引きこもり気味のアドリアナでもそんな話耳にしてると思うんだけど、私は知らない。まだ記憶を思い出していないだけなのかそれとも...
アドリアナが1人悶々と自問自答していると、目の前のテーブルにいつの間にかティーポットとティーカップが置かれていた。
「皇太子殿下、貴方が急に学院に入学すると言い出したから急遽僕が開発したんだ...時間が無かったんだから不具合の1つや2つ出てきてもおかしくないでしょう」
ルークは持っていた紙の束を椅子の上にバサッと投げ捨てるように置き、フレッドの横に座るとティーポットを持ちカップに紅茶を注ぎ始めた。
あ、やっと紅茶出てきた...って侍女呼ばずに自分で淹れるんだ?>>
アドリアナは自分の前に置かれたティーカップを近くに寄せると砂糖を1つ入れてスプーンでかき混ぜる。
〝急に言い出した〟って...元々入学する予定じゃなく?フレッドの希望で此処に来たんだ...
でもそっか...前世の皇太子は学校へは行っていなかった。確か皇室専属の家庭教師がいるから学校へ行く必要はないのに何で学院に入学したんだろう?フォルティスと仲良いから来たとか?
「とにかく、この持ち帰った温泉水を分析してからじゃないとポーションは改良出来ない。しばらく温泉には近づかないで欲しいね」
「はいはい、解ったよ。ポーションが完成する迄は温泉に行くのは我慢する」
温泉好きって...意外なんだけどっ?
フレッドの不満気な表情を見てアドリアナは思わずぷっと吹き出してしまった。
あ、しまった...!
「あ、あの」
笑ってしまった事を後悔して恐る恐るフレッドの様子を伺ったがフレッドの表情は特に変わりなく、アドリアナはホッと胸を撫で下ろす。
「見ての通り僕は皇太子の身分は隠して学院にいる。僕の本当の姿を知られていい事はないし、これからも周りには知られたくない...だからマレ令嬢、この事は誰にも言わないで欲しい」
「はい、それはもちろん...誰にも言いません!」
フレッドの表情がいつになく真剣で、アドリアナが思わず姿勢を正して慌てたように言うとフレッドの唇の端からクスッと笑みが溢れた。
「あと、今まで通り普通のクラスメイトとして自然に接して欲しいかな」
「な、なるほど!承知致しまし...解ったわ」
黙って2人を眺めていたルークは〝はあ...〟と溜息を吐いた。
「大体君があんな所で転ばなきゃフレッドの髪の色が戻ってバレる事は無かったんだ」
え?私のせい?
「こ、転ぼうと思って転んだワケじゃないし!」
「フォンス嬢とフレッドを見間違えるとか、あり得ないよ?」
ゔ...
「湯煙で見えづらかったの!大体あんな所で貴方達に会うとか思ってなかったし!」
「あの温泉は最近見つかったばかりで効能や成分について調査中だ、今は皇室の管理になってる...誰に聞いた?」
「フォルティス...私に尋問してるの?」
「皇太子の入浴姿を無断で覗いたんだ、それなりの処分は覚悟してるよね?」
はあっ?覗きって...水着着てるし!!
「あ...貴方何様なのよっ!?」
「君よりは上だと思うけど?」
そりゃフォルティスは皇族で私より偉い(家格)かもしれないけど!
プツッ
アドリアナの堪忍袋の尾が切れた。
「まあまあ2人共...ストップ!」
フォルティスとアドリアナが睨み合いを始め、2人の雰囲気が険悪になっていると察したフレッドが声を大きく上げて制した。
「入ってほしくないなら立ち入り禁止の看板出しとけばいいでしょ!」
アドリアナはテーブルをバンッと叩くように手をつき勢いよく立ち上がった。シャランと音を立てて首元から桜のネックレスが飛び出したがアドリアナは全く気付いていなかった。1日身につけていたせいか、違和感を感じなくなっているようだ。
「今日の事は他言無用だ」
「解ってるわよっ、言われなくても誰にも言わないから!」
アドリアナはくるりと踵を返し魔法門を開けて中に入った。そのまま扉を閉めるのかと思いきや振り向いてルークをひと睨みし、歯を噛み締めて口を横に引き、『い〜だ』の表情を一瞬見せると扉が閉められた。
あの花のネックレス...あれってルークが持っていたガーネットの色と同じ...
「ルーク、マレ令嬢の事好きなのか嫌いなのか?」
「は...?好きな訳ないだろ」
「おまえって...ホント解りにくい奴」
「はあ...なんなのよ?ムカつく!」
荒々しく足音を立てて廊下を歩いているとふと窓に映る桜のネックレスをした自分の姿が目に入った。
こんなのいらないんだからっ!
桜のデザイン部分をグッと握り、引きちぎりそうな勢いに見えたが、アドリアナはぐっと怒りを鎮めた。
「はあ...物に当たってどうすんのよ」
※ 更新は不定期になります。




