Lesson 2 マレ侯爵邸 3
凛は手の震えを感じてそっとティーカップをテーブルに置いた。両手を膝の上に乗せ、震えを止める為に強く握りしめた。
「先日皇宮に寄った折に旦那様が皇帝陛下より頂いたそうですよ。領地内に新しく建てた別荘地に狩り場もあるので御誘いの話をしたそうです」
「そう...とっても美味しいわ」
うん、日本で売ってるペットボトルに入ったストレートティーとは全然違う。皇室の人達が飲むお茶だしさぞお高いんだろうな。
なんか《皇室》って聞いただけでビクッとしたけど、貴族なんだから茶葉くらい普通に貰うよね。なんかもうすでに皇室と仲良くて交流あるのかと思ったけど、考えてみれば皇太子に初めて会うのはまだ先なはずだし...ビクビクし過ぎかな。
凛は気を取り直して紅茶を飲む事にした。
コンコン
「そろそろ旦那様がお戻りになります。お嬢様お出迎えされますか?」
ノックの後ドアを開けて部屋に入ってきたのは背筋の伸びた真面目な印象の執事らしき格好の男性だった。
*** ***
「旦那様お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
エントランスホールには先程部屋に呼びに来た執事のアイヴァンを筆頭に使用人の殆どが両側に並び、マレ侯爵邸の主人を出迎えた。
「お帰りなさいませ、ヴァシリス」
「ただいま、エレノア」
ヴァシリス・ステラ・マレ侯爵。深みのあるボルドーの髪色と瞳はアドリアナと同じ黄金色だ。マレ侯爵は側に駆け寄り出迎えてくれた美しい妻の肩に手を掛けると、左頬に軽くキスをした。
瞳はアベンチュリンのような濃い緑、アドリアナと同じターコイズブルー色の長い髪をゆったりとアップヘアにしたエレノア・ステラ・マレ侯爵夫人。2人が並んだ姿は美しすぎて凛は目をトロンとさせた。
うわっ...美男美女じゃん。「お帰りのキス」ってテレビ以外で初めて見た!!でもお似合いすぎてちっとも嫌じゃないっ!!
使用人達の1番後ろにいたアドリアナを2人は見つけるとニコッと微笑いかけ、おいでおいでと手招きする。
え...私?
使用人達は3人揃った家族の微笑ましい姿を想像しているのだろう。皆にこにこして此方を見ている。
これは...私も「お帰りなさい」って言わなきゃダメな雰囲気?皆さん期待してますよね??ゔ〜ん...
「お帰りなさいっパパ!!」
子供の頃のお出迎えってこう?
アドリアナ(凛)は少し考えたが思いきってマレ侯爵に抱きついてみた。
使用人達のどよめく姿が横目から見て取れる。
ん?もしや間違えた???
私は恐る恐る顔を埋めているマレ侯爵の広い胸から離して見上げた。
「私に抱きついてきた事なんて初めてじゃないか?それほど留守したつもりはなかったんだが...そうかパパにすごく会いたかったんだな!!」
マレ侯爵は歓喜の表情でアドリアナをギュウッと強く抱き締める。
うっわ...イケメンにハグされるって...心臓が...アドリアナのお父さん、どう見ても20代前半くらいにしか見えないし...私にコレは刺激が強すぎるっ!!
ちなみにマレ侯爵は29歳、マレ侯爵夫人のエレノアは27歳である。
「ねえアドリアナ。私も《ママ》って呼んでほしいわ」
エレノアはマレ侯爵が羨ましかったようだ。
やっぱ呼び方間違えた>>>
「少し見ない間に積極的になったのかな?...ウチの領地付近には歳の近い貴族の子女がいないし話し相手がいないせいで大人しい性格になってしまったと思っていたが...この分なら問題無さそうだね」
アドリアナって大人しい子だったのか。勝手に子供らしくて元気なイメージかと思ってた。
「まさかヴァシリス?アドリアナも連れて行きますの??」
連れて行く??何処に?
「アルドル公爵家のテオドールだが覚えているかな?そのテオドールが成人になる祝いのパーティーが近々開かれるんだ」
「前に会った時はテオドールが学校へ行く前だったからアドリアナは小さかったし覚えていないでしょう?テオドールは私の姉様の息子で貴女の従兄弟よ」
パーティー?学校?あるのっ?この世界にも!?学校なんてアドリアナは行ってなかったけど...
あと、従兄弟なんていたんだ?《テオドール》かあ...成人って事は16歳...歳は離れてるけど知り合いは増やしたいし、会ってみたいな。
皇太子じゃなくてテオドールが...登場??
※更新は不定期になります。




