Lesson 13 北の森 4
あの時僕は見てはいけないものを見てしまった気がして...何故かその時は涙の理由を尋ねる事はしなかった。
今考えてみれば12歳の自分の弟に何を遠慮してんだ?と思うが。
学院に入ってから久しぶりに会ったルークは少し変わったように見えた。同じ年頃の友人が出来たせいかもしれない。
...それともターコイズ色の髪の彼女の影響なのだろうか?
アレックスは2人から1歩下がった所で2人の遣り取りを眺めていた。
「これ君のだろ?さっき上から降ってきたけど?」
「そ、それ...!」
ルークが懐から取り出したのはターコイズ色のルピライトが埋め込まれた髪留めだった。アドリアナは髪留めを見た途端、今まで曇っていた表情がパッと晴れたかの様に見えた。
「ありがと!!」
フォルティスの手から奪い取るように受け取ると、やっと私の所へ戻ってきたヘアアクセを両手に乗せてまじまじと眺める。
傷も無い...良かった〜!
フォルティスが見つけてくれたお陰で無事戻ってきたし...まあ、さっきの失礼な発言は我慢してあげよう。
「それさっさと仕舞ったほうがいいよ」
「なんで?」
アドリアナはきょとん、とした顔で聞き返したが戻ってきた事が嬉しすぎて陽が落ち始めた夕日に反射してキラキラ光るルピライトを無邪気に眺めている。
ルークが呆れたような溜め息を吐いた時にはアドリアナの頭上には黒い大きな影が迫っていた。
「...え?暗...きゃあっ!?」
バサバサッ
見覚えのある大きな翼が頭にぶつかってきて驚いた私は思わず目を閉じた。気づいた時には強く腕を引かれて、私は勢い良く堅い布に顔を埋めたような格好になっていた。
ギャアッ
断末魔の叫びのような声が聴こえてアドリアナは思わず身体を竦める。
目の前は黒い布しか見えない...というかこれって2人のどちらかの胸だよね?
アドリアナは顔の前に置いていた手の平にグッと力を込めて押してみる...がビクともしない上、再び堅い布に顔を押し付けられた。
もうっ?何なの!?
「じっとして」
頭の上から聴こえた声で私はこの胸が誰の物なのかを理解した。
「〝縛〟」
「〝水の槍〟!」
え?魔法!?
ルークとアレックスの呪文が聴こえると同時にグワッと獣のような呻き声が聴こえた。
バキバキッ
えっ、えっ!?何が起こってるのっ!?
「ねえっ?フォルティス公子!前が見えないんだけど?」
「...見ない方がいいと思うけど」
ルークが腕の力を緩めるとアドリアナは振り返り目の前にある光景を見て愕然とした。
「な...にっ?これ...?」
膝がガクガクと震えて足に力が入らない。
アドリアナの足下にはヘアアクセを奪ったチャコック鳥らしき鳥とその5倍位はある全身鱗で覆われた怪鳥が横たわっている。怪鳥が落ちた時にぶつかったのか無残にも折れた太い木の枝が何本も散らばっていた。
翼があるから鳥?なのかな?
まだ息があるのか呻き声が漏れる口元から恐ろしい程鋭い歯が見えていた。
「こんなの...見た事ない...っ」
恐怖のあまり後ろへ倒れそうになったがすぐ背後にいたルークに支えられて不本意ながらアドリアナはルークの腕に掴まった。
「だから言ったのに...」
ルークは溜息混じりにボソッと呟く。
ここって...こんな恐竜みたいなのが出てくるような危険な世界だったの!?
魔法が当たり前になる筈だ。魔法が無かったらここでは生きて行けない。
「チャコック鳥を追って此処まで迷い込んだんだろう...こいつはメルクアース周辺にしか出没しない魔物だ」
「魔物?」
この恐竜みたいな全身鱗の鳥が!?
「メルクアースは強い魔導師が少ないから魔物が多く生息していてね、マレ領地はトラヴィス侯爵が魔物が入らないように結界を張っているはずなんだが...長く張った結界だったのか弱まっていたのかもしれない」
アレックスは空を仰ぎ見ながら倒れている魔物に近づく。
魔物は前に私がフォルティス公子にかけられた事がある、魔法の赤い鎖で縛られていた。
「こいつは鳥を主食にしている...マレ真珠に惹き寄せられて集まってきたチャコック鳥目当てに結界の隙間から入って来たんだろう」
アレックスの魔法の槍が刺さったまま、魔物からシュワシュワと水蒸気のような煙が身体から吹き出てくると次第に魔物の身体が消滅し始めた。
またもやアドリアナのヘアアクセ狙われる!!
どんだけキラキラ好きなんだチャコック鳥〜!
※ 更新は不定期になります。




