Lesson 13 北の森 1
陽の4の時(夕方)ーー
「お嬢様、明日は忙しいですからドレスに合わせてヘアアレンジも今のうちに決めておきましょう!」
エミリーが虹色に光るラメの糸で繊細な刺繍がされたペールグリーンを基調とするドレスを胸に抱えてやって来た。
「まあ!素敵な刺繍ですわね。この花は何という花ですの?見た事のない花ですわ」
「...私がデザインした花だから実際にはない花なの」
うーん、やっぱり桜はこの世界にはないみたいね。
エミリー達も知らないって言ってたし。
「編み込んだ髪にコレで留めて...できましたわ、お嬢様!」
わ...ピッタリ!テオドールがくれたヘアアクセとこのドレス...
勿体無くて普段使わずに宝石箱に仕舞ってたんだけどエミリーにすぐ見つかっちゃって...折角だしパーティーで着ける事になったんだよね。
鏡で前と後ろからと最終チェックを終えて今まで着ていた格好に着替えようとしていると...
「アドリアナ!危ないっ」
ティナが私の後方を見て緊迫した声を上げた。
只事では無いと感じてアドリアナは後ろに振り向こうとする。
「え?」
バサバサッ
大きな翼が上下に動いたのが視界の隅に一瞬入ってきたが、それはすぐにアドリアナの視界から消えた。
なに?今のっ...鳥!?
「アドリアナ様っ!髪留めが...!」
マリアが驚いた表情で私を見てる。
私は確かめるように後頭部の髪を左手で触った。
ない...ない無い〜っ!?
テオドールがくれたヘアアクセが無くなってる!?
「無くなってるっ!まさか今の鳥が?」
アドリアナはすぐに風を入れる為に開け放たれていたバルコニーに駆け寄った。
1羽の鳥が飛んでいるのが見える。それはだんだんと小さくなっていく...
速い!もうあんなトコに!?
「一瞬だったから自信ないけど、もしかしたらチャコック鳥かも」
ティナから聴き慣れない鳥の名前が出て、アドリアナは首を傾げる。
チャコック鳥??聞いた事ない...
「実は旦那様には口止めされているのですが、最近新作のマレ真珠の盗難被害が相次いでいるそうです」
「あ...!チャコック鳥はキラキラしたものを集める性質がありましたわね」
「だからお嬢様のヘアアクセを持って行ったのですね!」
「でも生息地はメルクアースの海辺でしょ?かなり遠くない?」
さすが...!外(異世界)から来た私よりリリとティナは色んな知識を持ってるなあ。
「旦那様が北の森でチャコック鳥の巣を見つけたので、昨日駆除を依頼したそうなんですが...」
〝巣〟?...って事は巣を探せばヘアアクセは其処にあるかもしれない。
「北の森ね?わかった!行くよソラ!!」
「あっ?アドリアナ〜!」
呼び出したソラに素早く乗ったアドリアナはバルコニーから飛び去った。
リリアーナとティナは困惑した表情で視線を合わせた。
「...追いかけるわよ、リリ」
「心得ておりますわ」
ぺぺとハルに乗った2人はアドリアナを追いかけるように飛び立って行った。
「大丈夫でしょうか?いくら騎士団に駆除を依頼したとはいえ、魔物が出るかもしれないから〝北の森〟は入らない方がいいとお伝えした方が良いのでは?」
「お嬢様は止めても無駄でしょう?」
マリアは溜め息をついた。
*** ***
「兄上...此処は何処ですか?」
「え?...あ〜マレ領の北の森だ」
「騙したんですね?...魔物の調査だと言ってたのに」
「いやいや騙してはない!調査は本当なんだ。それが偶然マレ領だったってだけで!」
「ふーん...じゃあさっさと終わらせて帰りましょう」
「お前っ?誕生日パーティーに行かないのか?」
「僕は招待されてないので行く必要はないでしょう?それよりどんな魔物ですか?」
ギャッ
アレックスが「だってお前さっき...」と何か言いかけていたが、その時頭上から獣の声が聞こえて2人の足がピタリと止まった。
なんだ?鳥が襲われたのか?
アレックスとルークは即座に厳しい目つきで空を見上げる。
2人の目には森の木々の間から虹色の光が見えた。その光は数秒で数メートル先の地点に落ちたように見えた。
何が落ちてきたんだ?
2人はその地点へ近づき、足元にあるそれをルークが拾い上げる。
真新しい金とターコイズ色のルピライトが埋め込まれたヘアアクセサリーだ。
「・・・・・・」
拾い上げたそれをルークは手のひらに乗せて何か考えていたがすぐにマントの内ポケットに仕舞った。
「おい、ルーク?」
「心配しなくても持ち主にちゃんと返すよ。...ちょうど近くにいるみたいだし」
結局やって来たんかーい!ルーク?
アドリアナは無事にルーク達の所へたどり着くのか...?
※ 更新は不定期になります




